ミュージカル「9 to 5」2024年10月上演!2012年版を観て爆笑したので感想と魅力を語ります!

あの大人気ミュージカル『9 to 5』が2024年10月に日本で上演される。1980年にアメリカでミュージカル映画として制作され、いくつもの賞を勝ち取った本作。私は日本で2012年に上演された舞台版を観たが、あまりにオモロくて痛快で元気が出た。

それが12年の時を経て生まれ変わろうとしている。1980年のアメリカと2012年の日本で、人々の心をガシッと掴んだ物語が、2024年の私達に何を伝えるのか。

本記事では、あらすじと登場人物のご紹介、そして本作にメスを入れる気鋭の演出家、上田一豪さんについて語る。是非最後までお楽しみください。※ネタバレ注意です。

『9 to 5』あらすじ

登場人物(2012年上演版より)

口髭がトレードマーク、人でなし社長のフランクリン・ハート Jr.。絵にかいたようなパワハラ・セクハラ社長。連結会社(consolidated companies、親会社を持つ子会社ではあるが議決権が半分くらいある)の社長。

親会社の社長とか自分より偉い人にはゴマスリし、部下にはデカい態度という「最悪の上司」「もっとも上司にしたくない男」のお手本。

女性蔑視も甚だしく、能力があっても女性という理由だけで絶対に昇進させない。

こんな、私だったら1年もたないであろう会社の社長に苦しめられているヒロインが3人描かれる。
逃げずに復讐を果たし、会社の改革まで成し遂げた肝っ玉姐さんたちだ。若くて可愛い姉ちゃんではなく、ある程度の年齢と人生経験を積んだ女性たち。

1人目のバイオレットは夫を亡くした身。結構大きな息子がいるシングルマザー。
社長フランクリンにこき使われている。
フランクリンが男尊女卑ゆえに自分より能力の低い男性社員が出世していくのを見ていることしかできない。
それでいてフランクリンにコーヒーを淹れるのはいつも彼女の役目。

バイオレット、いい子だから私にコーヒーを淹れてくれ。砂糖は無し、ダイエットシュガーを少々

これがいつものフランクリンの注文の仕方。

ドラリーはフランクリンの秘書。グラマラスな体つきでフランクリンからセクハラを受けているが、ちゃんと彼氏がいる。
映画版では2人がヤバイ関係にあると嘘の噂を流されていたらしい。
舞台版では、フランクリンはわざと机の上のペン立てを床に落とし、ドラリーが拾っているのを上から眺めて胸元を覗いたりしていた。
しかしドラリー、いざ迫られるとドSのプレイみたいなフリをして隙を突き、フランクリンを縛り上げてしまう。お見事。

そしてジュディは離婚をきっかけにフランクリンの会社に就職してきた女性社員。
初めて触る大きな印刷機を前に苦戦している時、とろくさすぎてフランクリンに怒鳴り散らされる。
駆け付けたバイオレットに「泣いたらダメ!完全に舐められるわよ。奴の思うつぼ!」と助けられる。
これがきっかけでバイオレット、ドラリーと友人関係を結ぶ。

最後にご紹介したいのはフランクリンのことが大好きな別の秘書、ロズ。貫禄のあるオバチャン。

ほかのみんなが「♪毎日9 to 5」と9時から5時まで労働させられる日々を歌う中、一人だけ「♪あなたに会えない5 to 9」と、会社にいない5時から9時までの孤独な時間を歌う。

3人のヒロインが何かを企んでいる時にはトイレで盗み聞きし、フランクリンにチクったりする。トイレットペーパーに記録を書きつけていたのが笑った~。

俳優さんの演技という目線から言うと、実はフランクリンとロズが舞台に出ている場面でいちばん空気がキリリと締まる。どちらもベテラン俳優さんが演じるので2人のボケノリツッコミや丁々発止の会話がめちゃくちゃ面白い。

フランクリン成敗の妄想劇

3人のヒロインは仕事終わりに女子会を開き、ストリチナヤ(40度もあるウォッカ)をグビグビしながらフランクリンの悪口を言いまくる。私だったらこうやって成敗してくれるわ!と、それぞれがフランクリンをやっつける妄想劇を繰り広げる。

まずジュディ。自分がナイトクラブのダンサーのつもり。嵐に遭い雨宿りにやってきたフランクリンと踊るが、男性の大事なところを蹴っ飛ばしたうえピストルでバンとやってやる。
(ここで蹴っ飛ばされたフランクリンがウサギ跳びでヒイヒイ言うのがなんとも滑稽)

続いてドラリー。首に縄をかけて変なポーズをさせたうえお尻に焼きゴテを捺してやる。
(ここでフランクリンが本当にドMな感じで変なポーズしてみせるのがオモロすぎる)

最後はバイオレット。いつも淹れているコーヒーに毒を盛ってやる。
(ここでなぜかバイオレットは白雪姫のコスプレ、フランクリンが苦しんでブチ切れているのを小バカにする。アホすぎなやり合いがもう最高)

復讐開始。ついに報われるヒロインたち

翌日。いつものようにフランクリンに頼まれてコーヒーを淹れるバイオレット。しかしよそ見をしているうち、ダイエットシュガーと間違えてネズミ捕りの粉を入れてしまう。

幸いフランクリンは変な味がしたくらいで体に害はなかったが、それがロズにバレてフランクリンに逆に罠を掛けられ、すごいことになる。

この事件をきっかけにヒロインたちはフランクリンへの復讐を始める。

フランクリンを自宅に監禁し、宙吊りの刑に処すヒロインたち。社長不在の間に会社で大改革を決行する。古めかしい設備を整え、明るい色のデスクや座り心地のよい椅子を買ったり、アル中の社員にセラピーのサービスを受けさせたり。

社内は見る見るうちに働きやすい環境へ様変わりし、多くの人に感謝される3人。

そこへ自分で手錠を切って脱出したフランクリンが駆け付けるが(なななんとパジャマにジャケットだけを羽織った情けない姿で大爆笑)、時すでに遅し。

たまたまそこにフランクリンの上司、会長が居合わせる。会長は、会社の大改革がフランクリンの功績だと勘違いしている模様。その会長の推挙で、フランクリンは南米のド田舎に新しくできる支社に派遣されることが決定。つまり、遠い土地に飛ばされる。

その代わり、フランクリンのすぐ下で陽の目を見ないでいたバイオレットが、晴れて社長に就任。気持ちの良いハッピーエンド。

1980年の物語『9 to 5』が2024年に何を訴えるのか

あらすじ考察

もうお分かりですね。そうです。1980年から40年以上たった今でも同じことが起こっている会社は決して少なくない。日本でも、世界でも。フランクリンのような上司もいるし、3人のヒロインたちと同じ目に遭っている女性たちがまだいる。

これは過ぎた歴史などではない。今でも「やったぜーー!ざまみろーー!あたしもこんなふうにコンチキショーなシャチョーをやっつけたいぜーーー!」と思える人がいる。

だって『ムーラン・ルージュ』のストーリーを「バカにしてやがる」と思うのではなく感動しちゃう人がたくさんいるんだもんね。

でなきゃ上演されないでしょ。時代錯誤ならウケないと分かるはず。ウケないと最初から分かるならやらないはず。『9 to 5』の物語は今の2024年の日本において他人事ではないのだ。

まあ社長を宙吊りにするのはさすがに犯罪になりそうで逆に咎められたら損なので、これは無理として、でも能力を存分に発揮してギャフンと言わせることはできるはずだ。

そう、見ていて気持ちがいいだけでなく「できるはず」と思わせてくれるのが本作の一番のパワーである。

演出家・上田一豪さんの視線

さて、ここで演出家の上田一豪さん。私自身はコロナ禍の影響をもろに受けた『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』と『Grease』の2作品しか拝見していないが、プロフィールを見ると最近のご活躍目覚ましい。

東宝が制作する数々の作品でも名作中の名作ばかり手掛けている。『いまを生きる』、『のだめカンタービレ』、『ムーラン・ルージュ』(スーパーバイザー。おっとこの作品も彼が関わっているんだ~)、『四月は君の嘘』、『next to normal』、『笑う男』、そして『この世界の片隅に』。

芸術庁の奨学金を受けてニューヨークで演出の勉強をしたご経験もあり、早稲田大学在学中に旗揚げしたTipTapというご自身の劇団で今もオリジナル作品を数多く手掛けている。最近は講演会にも力を入れているとのこと。

彼はものすごく面白い。Interestingとfunnyの両方の意味で面白い。最初の1作品を観ただけでも分かる。しかし思っていたより10倍すごい人のようだ。彼が演出を手掛ける作品をもっともっと観ていきたい。

特徴としては、面白いと思えるものは何でもやってみる。作品を面白くすることを全力で生み出す。別記事で是非とも語りたいが、世界中で大定番のロングラン作品に、驚くどころか感激してしまうような斬新な演出を付ける。

そして人への愛が深く、作品の中でオモロイところと真剣なところ、グッとくるところの区別が明確に分かれているので、非常にメリハリのある舞台になる。

現代社会に訴えかけるメッセージを必ず入れるのでゾクッとすることもある。

彼が描く女性たちのブレイクスルーと人でなし社長。おそらく2012年版の力強さとはまた違った、を持っているのではないか。

それぞれの境遇を背負った女性たちが出会った時、大きな共通の敵を見つけた時、力を合わせる時、どんな痛快さになっているのだろうか。痛快さだけで済むだろうか。楽しみだ。

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