ミュージカル「ロミオとジュリエット」日本語版の魅力を語る

2024年も『ロミジュリ』がやってきた。シェークスピア大先生の不朽の名作が。私は2019年と2021年に好きな俳優さんが多数出演されていたため、本作を観劇した。その際に持った物語や演出・エンタメとしての感想と見どころをご紹介したい。

項目ごとに分かれているので最後までご一読の上、魅力を存分に予習していただければ幸いです。※ネタバレ注意。

尚、この作品そのものは日本語で『ロミオとジュリエット』。しかしフランスで作られ日本で小池修一郎さんが演出し、宝塚ではなく男女混合で演じる東宝版は『ロミオ&ジュリエット』と表記される。チケット情報等を検索される際にはご注意を。

ロミオとジュリエット、あらすじは大嫌いなのにオススメする理由とは

正直に言うと、個人的にもともとのストーリーは大嫌いだが、いい意味で予想を裏切られた。今ではミュージカルファンとして、ミュージカル初心者にススメしたい作品のベスト5に入る。

登場人物に親近感が持てて、勝手に若者たちにニックネームをつけているくらいだ。ロミオはロミー、ジュリエットはジュジュ、マーキューシオはマーくん、ベンヴォーリオはベンくん、ティボルトはテッちゃん。

物語は誰もが知る悲劇で、愛によって平和を作る大切さを訴えかける。
ロミオは20歳くらい、ジュリエットなんて原作では13歳。こんな幼い二人が平和を望んで命がけで愛し合って、しまいにはアンラッキーが続き二人とも亡くなってしまう。
薬で息絶えたフリをしたジュリエットを見たロミオが後を追い、目覚めたジュリエットはやはり彼の後を追う。

ここでツッコミたい。

追うわけなかろう!?ちゃんちゃらおかしいわ!

たった13歳で愛する人のために自分の胸に剣を突き立てる勇気なんて出るわけない。突っ走る前にもうちょっとモノをよく考えろ。20歳の男が13歳の女の子を妻と呼ぶのもあり得ない。

ってかケータイ1台あれば起こらない悲劇。「今からお薬飲んで寝てるから間違えないでね。迎えに来てね~」とメール1本打てば万事うまくいくのに。まあ16世紀にケータイはないが、だとしても連絡くらい確実に届くようにしなさいよ大事な計画なんだから。

とまあ、私が持つロミジュリの印象はこうだった。このミュージカルを観ても、こいつらやっぱりただのバカップルという印象は変わらなかった。

しかし予想を裏切られたのは、演出と舞台設定の面白さ。「結末はどうなるんだろう?」のワクワク感がないこの作品を楽しむため、途中経過がこれでもかとショーアップされ、翻案(改造)されていた。

『ロミジュリ』と『ウェスト・サイド・ストーリー』とのガッチャンコ

まず特筆すべきはダンスと曲が良すぎること。

『ロミジュリ』の20世紀アメリカ版として作られたのが、やっぱり不朽の名作『ウェスト・サイド・ストーリー』。原作である『ロミジュリ』が、こっちにグッと寄せて作られている。そう、ダンス満載で曲が21世紀仕様なのだ。

そもそも時代の設定が2040年の近未来。衣裳もお洒落で目を見張る。青色を基調としたストリート系のチーム・モンタギューと、赤色を基調としたクラシックやジャズ系のチーム・キャピュレット。

衣裳の色はオリジナルのフレンチ版を引き継いでいるが、フレンチ版はみんなシアターダンス。ストリートとクラシックに分けているのは日本発祥のようだ。

いい。めっちゃいい。特徴が出るからダンスシーンが多くても飽きが来ない。初っ端から喧嘩シーンのダンスがお見事。ここからもうウェスト・サイド・ストーリーと一緒だ。

物語の中でも度々ダンスシーンがあり、特にモンタギューの若者たちが歌い踊る「世界の王」は名場面。「誰のおかげでメシが食えると思ってるんだガキども。結局てめえのことしか考えてねーな」と突っ込みたくなる歌詞だけれど(笑)単純に曲とダンスが楽しい。

個人的イチオシはロミオとジュリエットが出会う仮面舞踏会。ダンスも曲も独特だが、多くの人が集う舞踏会だけあって全員がオフマイクで小芝居をしている。一人一人を追っていくと個性たっぷり。マーくんたら、テッちゃんにちょっかい出してばかりでクスっと笑える。

『ロミジュリ』なのにスマホ使うんかい!

オリジナルのフレンチ版にスマホは出てこない。どうも小池修一郎先生は私と同じことを考えていたらしい。観劇中に一番「はい~~???」となったのはここだった。まあ2040年だから当然だけど、一斉送信にソーシャルメディアかいな。

スマホが活躍する場面はたくさんあった。中でもロミオとジュリエットの秘密の結婚式は、ロレンス神父の礼拝堂にたまたま寄った若者によって目撃され、盗撮・拡散されてしまう。そこから起こるティボルトとマーキューシオの殺害事件。じゅうぶんありそうだ。面白いじゃないか。

でも私はスマホさえあれば解決と思っていた。それでも悲劇は起こるんかい。どうやって?

観てみて納得した。まずジュリエットは厳しい父のせいでスマホを持っていない。次に、ジュリエット入眠作戦はロレンス神父がロミオに連絡するはずだったが、ロミオは追放先のマントヴァで怪しいドラッグストアに入り浸り、スマホを盗まれてしまう。

ロレンス神父は「ロミオからまだ返信がないが…」と心配しつつ、ジュリエットが目覚める頃合いを見計らってキャピュレット家の霊廟に行く。だが時すでに遅し。二人の遺体を発見する。

「いやこんな大事なことメールだけじゃなくて電話しなさいよ!!」と多くの観客は激オコになるわけだが、そもそも盗まれているんだから電話したって誰も出ないだろう。

結論、ロレンス神父がやるべきだったのはメールと一緒に電話をすることではなかった。ジュリエットが目覚めるせめて2時間前から霊廟で待機していることだった。

まあ犯人探しをしてもどうしようもないが、スマホを使っても防げなかった悲劇の顛末はこういうことだった。16世紀の物語は時代が隔たりすぎて共感を持ちにくいが、現代人にも実感が持てる「あるある」を作り出した。小池修一郎先生の発想の転換に唸る。

『ロミジュリ』が登竜門?若手俳優さんの挑戦の場

この作品には登場人物に若者枠と大人枠があり、若手なら登竜門、大人枠なら「俳優さんの意外性を引き出す」という魅力がある。

ジュリエットには必ず新人が使われる。小池先生がオーディションで認めたルーキーが鮮烈なミュージカルデビューを果たすことができるのだ。

乃木坂46の生田絵梨花さんがアイドルからミュージカル女優へ羽ばたいたのも、NHKの朝ドラ『わろてんか』で主演した葵わかなさんが初舞台を踏んだのも、藤岡弘さんのご息女が音大在学中に「立稽古って何ですか?」のレベルからデビューしたのもここ。2024年版では生田さんの後輩、乃木坂46の奥田いろはさんが初舞台を踏むとのことで注目を集めた。

ロミオ、マーキューシオ、ベンヴォーリオ、ティボルトも、ダンサーたちも全員30歳未満。小池さんはDVDの特典映像において、経験の浅い新人を敢えて使う意義を語っていた。

「もっと経験のある俳優を使えば舞台のレベルは上がる。しかしもっと大切なのは、登場人物に年齢の近い若者が演じること。多少拙くてもいいから、自分のことのように感じて表現してほしい」。

確かに、もう少し歌が上手ければいいのにな…と思う場面はある。しかし、みんな本物に見える。

私が観劇した中で印象的だったのは、2019年にマーキューシオを演じた黒羽麻璃央さん。犯罪者の目をしていた。友達想いだが、ものすごいワルだった。しかし千秋楽の挨拶で、マーくんが体から抜けた黒羽さんは「もっとスキルアップしたい」と真顔で言ったのだ。

いや分かっちゃいる。マーくんはあくまで役。しかし犯罪者にしか見えなかったマーくんが、中身の方はなんて素敵な青年なのだ。ギャップ萌えしちゃうじゃないか…そして翌年はあっという間に『エリザベート』のルキーニに大抜擢。2022年はこの作品にてロミオに出世。やりよったな。

『ロミジュリ』チケット代の元を取ってくれるベテランたちの魅力

正直、大人枠がガッチリと脇を固めてくれているから、この作品はチケット代の価値がある。歌が素晴らしい方々が勢ぞろい。

ヴェローナ大公とロレンス神父を演じた石井一孝さん、岸祐二さん。
ヴェローナ大公とキャピュレット卿を演じた岡幸二郎さん。
マダム・キャピュレットを演じた春野寿美礼さん。
ジュリエットの乳母を演じたシルビア・グラブさん。
マダム・モンタギューの秋園美緒さん。

この方々の歌を聴いていると本当に安心するし幸せになる。

大人組の中でもドラマ性において見どころ満点なのは、ジュリエットの両親つまりキャピュレット卿と妻の関係ではないかと思う。

前半でジュリエットにパリス伯爵が求婚に来るところで、好きでもない人と結婚するのは嫌だと言うジュリエットに母親はジュリエット出生の秘密を明かす。
お金のために親の言いなりになってキャピュレット卿と結婚した母は、愛のない結婚生活に苦しんで夫以外の恋人を作った。
その恋人の子こそがジュリエット。キャピュレット卿はそれを知らない。

しかし、実はキャピュレット卿はジュリエットが3歳になった時点で気付いていた。でも娘を心底愛していたから何もできなかった。鬱憤を晴らすようにギャンブルに嵌まり、たくさんの女性関係を作り、家庭を顧みなかったキャピュレット卿。

心の闇を吐露するソロ曲「娘よ」、背景に小さい頃のジュリエットの写真がたくさん出てきてなかなか泣ける。

この複雑な大人の物語、原作には出てこない。バカップルや不良どもが突っ走っていく物語の隣で「大人目線のロミジュリ」がスパイスを加えてくれる。

さらに、個人的にボロ泣きしたのはシルビア・グラブさん演じるジュリエットの乳母。

キャピュレット家の様子を見ていると、どうも母親より乳母のほうがジュリエットと濃い時間を過ごしてきたようだ。母親ではないが自分の子と思って育ててきたジュリエットが、あんな素敵な青年に恋をして、結婚する。

私はもう必要ない。巣立っていくのね。両家の争いを乗り越えて愛し合う2人を結ばせるため、神様、私にも勇気をください…。

こんな気持ちで娘を送り出す乳母の気持ちも、送り出されるジュリエットの気持ちも、両方分かる気がする。切なくてたまらず毎回泣いてしまう。

いろんな意味で、多くの人にオススメです

こんな感じで、フレンチ・ミュージカルの日本語版『ロミジュリ』は様々な意味で一見の価値あり。2024年に興味のある俳優さんが出演されるファンの方は是非行ってほしい。ミュージカルの敷居は高いが『ロミジュリ』原作ファンという方々にもぜひ挑戦してほしい。

さらにさらに、原作の『ロミジュリ』でストーリーにドン引きした私と同じ類の方々、騙されたと思って是非行ってみてください(笑)!!俳優さんも作品自体も、きっと新しい魅力が発見できるはずだ。

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