5人のミュージカル俳優さんが決起したユニット、The Gentlemen。さらに6人目のゲストもまた男性。男だけで繰り広げるコンサートなので、タイトルはThe Gentlemen’s。そう、「紳士たちのいるところ」。
舞台に上がる紳士たちは橋本さとしさん、石井一孝さん、中河内雅貴さん、上川一哉さん、村井國夫さん、ゲストに小野田龍之介さん。
参戦してまいりました。
華麗なるダンスに息を呑み、お笑い芸人もマッツァオなパロディに腹筋崩壊、美しい歌声と表現に涙。絶え間なく投下される爆笑と感動の嵐は、まるでステージ上の花火大会。呑んでないのに楽しすぎて酔いました。
酔いがさめないうちに、感謝を込めて激熱ライブの模様と感想を書かせていただきます。
会場にいらした方も来られなかった方も、ご一緒にお楽しみください。そして近い将来、再び紳士たちが集結する日を願いましょう!
The Gentlemen’sはモンスターのような紳士たちのいるところ
ゲスト含め30代3人、50代2人、そして80歳1人。小野田さんをして「各世代のモンスターが揃った」と言わしめた。確かにおっしゃる通り、怪物なみにパワーが強い。なんて個性豊かな紳士たちだ。
オーバーチュアはキング・オブ・音楽マニアの石井さんによる作曲。『ムーラン・ルージュ』と『イザボー』を掛け合わせたような、危険でお洒落な不夜城を想起させるジャズ。黒いスーツで固めた紳士たちが揃う。
かっこいい。あー、疲れも吹き飛ぶわ~。…と思ったらトークが始まった途端、1分につき1回の頻度で村井御大の親父ギャグが入る。
開始5分で思った。いかん。このショーは笑いすぎて腹筋痛くなるヤツや。
橋本兄貴は「しっとりと上品で大人なジェントルマンのまま最後まで行きたいと切に願っています…拍手がまばらですね。私に何をしてほしいと?」とトボけてみせる。
大丈夫、もうよじれてます。というか兄貴、あなたともあろうお方が何かしないわけないでしょ?
5秒後。出るわ出るわ、ありとあらゆるミュージカル曲が。
橋本さんは中河内さんのダンスに花を添えられつつ、渋いスロージャズを。
上川さんはピンクの吐息そのものの歌声で愛を叫ぶプリンスを。
村井さんは信じられない熱さのドン・キホーテを。
石井さんは失意のどん底にいるマリウスを。
中河内さんは、ジャージーボーイズ一世一代の大ヒットをノリノリで。
ミュージカルの名曲たちに大興奮し、ヒートアップして火傷しそうになったころ、コーナーが変わる。鎮火したと思ったら…ここからは次の項目で詳しく語るが、抱腹絶倒のお時間。鎮火ではなく逆に燃え盛ったような!?
笑いすぎて苦しくなったところでもう1人の紳士・小野田さんが爽やかな存在感で熱を冷ましに来てくれる。中河内さん、上川さんとともに『ウェストサイド・ストーリー』から世紀のラブソングを。
それも束の間、『ウェストサイド・ストーリー』の “Cool” で中河内さんと上川さんが圧巻のダンス。踊りの達人にしかできない高度な技を次々と決め、今にもナイフを出して喧嘩しそうな緊迫感を描く。
こんな本格的なダンスリサイタル…ミュージカルの一場面ではない、1曲が独立した世界観のダンス…久しぶりに観た。タイトルの通り、流れる水のように冷たく、ひたすらカッコイイ。
やっぱり表現するダンスって素敵だなぁ。
個人的なことになってしまうが、私は10~20代にかけてダンスを習っていたがギックリ腰をやって以来何年も踊っていない。10年抱えた腰痛、治ったんだよなぁ。またジャズダンス踊りたいなぁ。
あらいぐまラスカル&アンドレ・ザ・ジャイアントの『ベルばら』漫才
橋本さんと石井さんが力を合わせて「笑えるネタ」を作ると、笑いより先に悲鳴が来る。それほどすごい笑い爆弾が投下される。何が起こるか予測不可能。なので、ここからのパロディコーナーは怖くないのにゴールまでずっと叫ぶ、腹筋割りお化け屋敷のようなものだった。
さて、客席がザワついた。あれっ、どこかで聞いたことのある前奏?と、周りの皆さんが首をめぐらす。私も客席中央方向へ目線をやる。
なっ!!!!!
橋本さんがクルクルの長~い金髪、水色の昭和なアイシャドー&つけまつげ、ピンクの口紅を塗りたくっている。で、でかい。背丈もカツラも水色も、色んな意味でデカイ。
一方、石井さんは波打つ黒髪と全身黒い細身のシャツ、サッシュ、ブーツで決めている。ちょうどいいお顔の濃さ。脚なっっが。ていうか、普通に似合っている。まあこっちも色んな意味でデカイ。
だけど…だけど…橋本オスカルと石井アンドレやないかーーーい!!!!!
客席で腰を抜かした。
オッサンたち、あ、違う、紳士たちによるベルばら漫才。ボケとツッコミと天然が入り乱れ、丁々発止のやりとり。アンドレったらオスカルを「ラスカル」と呼んでしまい、「あ”っ、間違えた!」。
それはアライグマ!!
「私、あなたのそういう天然ボケなところが大好きよ♡ね、アンドレ・ザ・ジャイアント!」と、ボケネタ作りの達人オスカル。
その後もファンタジーは続く。怒涛の「愛あればこそ」からの~、若手の皆様が前述の『ウェストサイドストーリー』でラブソングを。オスカルとアンドレ、舞台にそのまま居座って若者たちにちょっかいを出す。
と、事件が起きた。小野田さんの手が、迫りくる橋本さんの顔面を真正面からベチッと捉えた。「こっち来んな」。オスカルの顔面を見事に覆った手が訴えかけている。
橋本オスカル、動けない。石井アンドレ、笑うしかない。笑いをなんとか抑えつつ、アンドレはチ~ンってショゲたオスカルの肩を抱いて袖に引っ込む。
小野田さん、トニーの歌を歌いつつ橋本さんの顔面を直撃した手に目を落とし、眉間に縦線が入る。その手のひらには、ピンクの口紅がベットリと。あ~かわいそうにと、憐みの目で小野田さんを見る上川さんと中河内さん。
もうだめです、さっきから笑いっぱなしで椅子からズリ落ちそう。パロディコーナーが終わった時の余韻と息苦しさ、やっぱりお化け屋敷だ。
ミュージカル俳優さんがもつ無限大の可能性
クライマックスにかけても多種多様な音楽と演劇の世界が広がる。
まずは小野田さんによるミュージカル『モーツァルト』の大名曲。高らかに歌い上げて「これこそミュージカルの醍醐味!」という耳福なお声と青年の純真さを聞かせてくれる。
そこから昭和歌謡、平成のヒット曲、Jメドレーへ。
ダンスが得意な若手たちが、そこいらのアイドルよりもずっと高い技術で歌い踊る。そこへ加わる、ダンス経験があまりないベテランたち。
ダンスのお稽古をする中で、30代のメンバーは50代の大先輩たちが必死に努力し、成長していく過程を目の当たりにしたとのこと。そんなチャンス、上司と部下の縦社会にいたら滅多にない。
年齢の差こそあれ誰もが平等であることがミュージカルの現場のいいところと石井さんも語っていたが、こういうことなのだ。
続いて、さっき腹筋が壊れるまで笑わせてきた橋本さん&石井さんのコンビが、今度は泣かせて来る。石井さん作曲、竜真知子さん(『三銃士』など多くのミュージカルの訳詞を手掛ける作詞家)作詞の、「幕が上がれば」。
舞台人の誠実な思いを歌い上げる曲。コロナ禍で幕が上がらない中も、祈るように歌われてきた曲。
これまで様々な俳優さんが石井さんとデュエットしてきたが、いちばん個性の違いが際立った。この曲でこんなに面白い化学反応は初めて。
そして村井さん渾身の “My Way”。
「歌は時間で歌うもの」という名言を聞いたことがある。その体現がまさにこれだった。
立て続けに村井さん伝説のジェヴェール警部、”Stars”。
笑顔で癒しを届けてきた村井さんの目が変わった。グッと夜空を睨みながら鋼鉄の重低音を響かせる。
待って、これ涙ちょちょ切れだ。
そこへ橋本さん、石井さんもハーモニーとして加わる。3人のジャヴェールによる決意の歌が胸に刺さる。信念をもって仕事をしてきた重みがズシッと、説得力を持って。
見事としか言いようがない。
なんて多彩なんだ。歌もダンスも演技も作詞作曲も。表現の幅がとにかく広い。それを見せつけられる時間だった。このコンサートは「いわゆるミュージカル・コンサートとは全く違う」と開幕前に言われていたが、なるほど理解した。
ここに集結したミュージカル俳優の皆様はいわば、なんでもできちゃうモンスターたちなのだ。1人1人の得意分野は違えど、力を結集すると魔法のような世界ができてしまう。
新たに書き下ろされたThe Gentlemen’sテーマソング
アンコールは、この日のために石井さんが書き下ろしたThe Gentlemenのテーマ。ショーの会場が有楽町の「I’M A SHOW(アイマショウ)」なので、それにちなんだ歌詞も出てくる。
石井さんが作曲家として、歌い手1人1人の顔を思い浮かべ、声の特徴に合うフレーズを考えて紡いだ、軽やかなジャズだった。
上川さんは甘さと優しさ。
中河内さんは力強さと爽やかさ。
橋本さんは大人の色気と渋み。
石井さんは誠実さと上品さ。
村井さんは奇跡の健康寿命。
ショーの締めくくりにホッと心が落ち着いた。ああ、週末はここで受け取った癒しをパワーに変え、また来週から頑張ろう。
最後に
金曜夜のテンションで幸せなParty Nightを過ごさせていただきました。「このメンバーでライブをやると聞いたとき、これは闇鍋だと思った」という橋本さんのお言葉通り、数分毎に度肝を抜かれるショー。
ときめきと、元気と、笑い爆弾と、体中にしみわたる感動。紳士たちに心からの感謝と拍手を贈ります。また絶対にアイマショウ!
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