ウェストエンド・ミュージカル『SIX The Musical』2025年1月日本初演!!来ちゃうよ!!しかもウェストエンドからの来日版と日本人キャスト版の両方が!!
歴史好きな方もそうでない方も。フェミニストの皆様、お待たせいたしました。そうです、これは女性たちへの賛歌。キャストはたった6人の女性たちのみ。男性陣を締め出してすみませんね(笑)。
SIXって、なんのこと?誰のこと?とお思いのあなたに、この記事を捧げます。この6人のことは世界史を勉強した人でないと分かりません。よって、この記事ではまずは世界史の初心者の皆様にも分かるようにザックリとした歴史解説、および制作の裏話をお届けします。
どんなあらすじ?作品誕生のきっかけは!?我々に届けるメッセージは?ぜひ最後までお楽しみください。
登場人物とあらすじ
「6人」。分かる人には「げっ」というほど強烈なエピソードだったはず。ここで初めて知る皆様、「はぁっ!?」と呟くご覚悟を。
「6人」とは、16世紀前半のイギリス、テューダー朝第2代国王ヘンリー8世の妃たちのこと。ヘンリー8世とは、イングランド黄金期を作ったエリザベス1世女王のお父ちゃん。
1国の王様が妃をとっかえひっかえ6人かよ、とドン引きしたあなた…それだけじゃない。彼女らは最後の1人を除いた全員が、悲惨な末路を迎えた。
1人目の王妃、キャサリン・オブ・アラゴン。「離婚」
2人目の王妃、アン・ブーリン。「斬首」
3人目の王妃、ジェーン・シーモア。「死んだ」
4人目の王妃、アン・オブ・クレーブズ。「離婚」
5人目の王妃、キャサリン・ハワード。「斬首」
6人目の王妃、キャサリン・パー。「生き残った」
ミュージカル『SIX』は、そんなヘンリー8世のせいで人生台無しにした6人の王妃たちが現代に蘇ってバンドを組み、ノリノリのライヴ形式で自己語りしていく。半分ミュージカルで半分ライヴのような作品というか、むしろコンセプトのあるライヴと言った方が合っているかもしれない。
最初は1人ずつ、どんな辛い目に遭ってきたかを披露していく。なぜなら、いちばん悲劇的な人生を送った1人がバンドのリードボーカルになれるからだ。しかし、ふと気が付く。
あたしたちの人生って、あいつ中心で定義されちゃうわけ?それ、嫌じゃない!?
ハッとした6人は歌バトルをやめ、ポジティブな自己肯定を全開にしてラストへ向かっていく。
そう、ヘンリー8世に酷い目に遭わされた王妃たちが、ヘンリーを介さずに語られる自分を発見していく。6人の女たちが、全身で女性賛歌を届けるライヴである。
6人の王妃たちとヘンリー8世の歴史
バツ3くらいなら現代にもいそうだがバツ5のうち妻を2人も斬首するって、どんだけクレイジーだヘンリー8世。あきれてモノが言えない。
現代の我々なら、まあ一夫多妻制を支持するような、ヘンリー8世に負けず劣らずクレイジーな人を除けば(言っとくが石丸さんではないぞ)、誰もがそう思うだろう。
ヘンリー8世はなぜ6人も王妃がいたのか。理由はいくつかある。息子に恵まれなかったから。死別したから。騙された気がしたから。中でも息子に恵まれないのは痛かった。
女王も歴史上いるにはいるが、男性の統治者にとっては男が王位を継ぐのが理想。したがって女王は本当に男子の王位継承者がいない場合の繋ぎとしてしか見なされない。たとえ現代から見ればその功績が男より素晴らしくても、当時はそうだった。
1人目の妻キャサリン・オブ・アラゴンは娘しか生まなかった。ヘンリーは2人目の妻アン・ブーリンと結婚するためにキャサリンと離婚し、カトリックを捨てた。
アンも娘しか生まなかった。宗教制度まで変え、すったもんだの末にキャサリンを捨てたのに、コイツも息子を生まないのかと業を煮やしたヘンリーは、アンに姦通罪をでっちあげて処刑してしまう。
3人目の妻ジェーン・シーモアはたった1人の息子を生んだが産褥で亡くなった。
4人目の妻アン・オブ・クレーブズは初めて会って間もなく離婚を言い渡された。
5人目の妻キャサリン・ハワードも、なんだかよく分からないうちに姦通の冤罪を着せられた。
そして6人目の妻キャサリン・パーがヘンリー8世を看取った。
ちなみに、ヘンリー8世の死因は梅毒。性病やんけ。6人も妻を不幸にした報復のようだ。
ちなみにヘンリー8世の次のイングランド国王は、3番目の妻ジェーン・シーモアが生んだ唯一の男子、エドワード6世。しかしこの子もたった15歳で亡くなる。
その後、最初の妻キャサリン・オブ・アラゴンの娘メアリーが女王となる。ヘンリー8世は王妃と離婚したいがためにカトリック教会をやめ、自らを元首とするキリスト教の新派(いわゆるイギリス国教会)を確立していたが、メアリーは厳格なカトリック。イングランドをカトリックの国に戻そうと粛清を繰り広げたので、「血まみれのメアリー」とあだ名された。
そのメアリーが病死し、ついにエリザベス1世が女王となった。そのエリザベスは、2番目の妻アン・ブーリンの一人娘。エリザベス1世の治世下で、イングランドは大航海時代における黄金期を迎える。
ヘンリー8世は女性には酷い仕打ちをしたが、政治家としては優秀で、教養も高かったらしい。父の政治の才能を受け継いだエリザベスが王位を手にしたことで、才能が花開いたといえる。
作者はケンブリッジ大学の学生たち!すべての性と人種を家族に
さて、このミュージカルの脚本・作詞作曲を手掛けたのは、ケンブリッジ大学のトビー・マーロウ(Toby Marlow)とルーシー・モス(Lucy Moss)という2人組。
ケンブリッジ大学のミュージカル・ソサエティ所属の2人は、ミュージカル界における多様性がまだまだ開けていない現状をなんとかしたいと考えていた。そんな中、最終学年でエディンバラ・フェスティバル・フリンジ(Edinburgh Festival Fringe)にミュージカルを出品するチャンスが来る。
エディンバラ・フェスティバル・フリンジとは世界でも有名な芸術祭。スコットランドの都市エディンバラで毎年夏に行われる。
2017年夏、そこで『SIX The Musical』世界初演が行われた。たちまち話題となり、あっという間にウェストエンドでプロたちによる上演が決まり、オーストラリアやブロードウェイ、ほかの国々にも次々と進出する。トニー賞をはじめとする数々の賞も受賞した。
この2人がミュージカル界に抱く信念はまさに、作品中で6人の王妃たちが悟る女としてのアイデンティティ発見に表れている。
インタビュー記事によると、2人は「女性は男性と切り離すことで面白くなることを書きたかった」と語っている。
歴史研究をしていると、女性の個性や活躍がいかに書き換えられ、歴史から消されてきたかが分かる。つまりそうして埋もれた歴史を抉り出し、ミュージカルの題材にできると。
『イザボー』の制作者たちと同じことを考えていたようだ。「かつてあらゆる歴史は女たちに素知らぬ顔」。消された女性たちは、ネタの宝庫だ。
さらに、6人の王妃を演じるの俳優の皆様は様々な人種。歴史を正確に再現するなら全員白人になるが、これについても「ミュージカル界においては白人が名誉ある地位を占めてきたから」こそ、人種が入り乱れるキャストにしたとのこと。他人を締め出してきた人種だからこその責務。
こういった2人の信念が反響を呼ばないはずない。ソーシャルメディア上にはファンたちにより、United Kingdomのキングダム(王国)ではなく、女性たち万歳のクイーンダム(Queendom、女王の国)ができあがっている。
様々な意味で、なんて痛快なんだ。笑ってしまうくらい気持ちがいい。その気持ちがいい作品が、ジェンダーや女性の地位に関してまだまだ遅れている日本に上陸したら、どんな旋風を巻き起こすのか。
巻き起こしたい。この保守的で閉塞感漂う国で、頭でっかちを蹴っ飛ばしてやりたい。期待大だ。
なお、この記事を皮切りに登場人物たちの歴史を追うシリーズを開始したいと思います。乞うご期待!
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