「イザボー」三銃士のご紹介♪中河内雅貴(ジャン)、上原理生(シャルル6世)、上川一哉(ルイ)

ミュージカル『イザボー』キャスト紹介の最後は、筆者が勝手に「イザボー三銃士」と呼んでいるこの方々を取り上げたい。

イザボー王妃にとってなくてはならない男達。1人は生涯をかけて愛し抜いた夫。もう2人は権謀術数のフランス王家で生き抜くために政治利用した愛人。どの男性もそれぞれの魅力が語り尽くせない。お一人ずつ順番に丁寧に語りますので、ぜひ最後までどうぞ。

中河内雅貴さん(ジャン)豪胆公の血を受けた恐れ知らず

純粋熱血な若者から脂ののった重役へ。豪胆公フィリップの息子らしい質実剛健さ。般若を思わせる、飢えた鬼のような目。

屈指の政治家と呼ばれた父のやることなすことを一歩後ろからじっくり観察し、吸収し、冷静に評価し、いつか来る自分の時代のために備えていた。
「最後は能力のある奴が勝つ」と信じていただろう。加えて「ジャン・サン・プール(恐れ知らずのジャン)」の異名にふさわしく射貫くような眼差し。

桐生操氏の研究によれば、華やかで社交的な父に比べジャンはいつもムッツリとしていたらしいが、確かに。冷徹だが表情豊かで、野心を笑顔の裏に隠すフィリップに比べても、ジャンは全然笑わない。カッコイイけれどチャラ男のルイとも全く違う。そんな骨太な真面目さがいい。

そんな期待の若手のはずだったジャンが転落するのは、イザボーの男になってしまったからだった。

色っぽい赤いドレスに変身して男達をとっかえひっかえするイザボーと、ほかの男達を払いのけてどんどん熱くなるジャンのデュエットダンス。指先から発する艶めかしさが、「はいご愁傷様~」と言いたくなってしまうほどの欲望を込めていた。

見せ場ではない場面で印象的だったのは舞踏会。いかにも「つきあいで出席させられた」という感じのカッタルイ顔でワインをこっそり地面に捨てる父に比べ、この時まだ若かったジャンはめっちゃ元気。

無表情に対してぴょんぴょん跳ねてしまう体は隠せない。「不本意だけど、何かあっちゃ嫌だから用心しなきゃだけど、みんなで踊るの楽しいです~」と丸わかり。かわいいんですけど~!!

ジャンを演じた中河内雅貴さんを拝見するのは『ロコへのバラード』と『宝塚ボーイズ』以来3度目だった。

失礼ながらダンサーさんがメインだと思っていたので、あんなに歌う方だったと知って驚いた。しかしWikipediaを見ると、やはりルーツはダンスの方にあるようだ。
ダンスの大会では何度も受賞し、ニューヨークへのダンス留学も経験。講師もできる。そこから俳優さんになり、演技や歌を教わって現在は歌も踊りもドンと来い。

『イザボー』ではあの裁判での堂々たる答弁がかっこ良すぎた。フランス国民の人気を博すのも当然だと思えた。バリトンでシャウトする父の血を確かに感じさせる、なんというファンキーな貴公子。

7月に公演が控える『ムーラン・ルージュ』ではサンティアゴだそうな。2幕冒頭でガガ様を歌う、あの人?中河内さんが歌うガガ様…きっと火を噴くくらいファンキーな歌とダンスだろう。

上原理生さん(シャルル6世)背筋が凍る狂気と白馬の王子

上原さんを拝見するのは『レ・ミゼラブル』と『スカーレット・ピンパーネル』に続き3作品目。
衝撃的なアンジョルラス、燃え上がる怒りのロベスピエールでは芸大卒の歌を存分に楽しんだが、シャルル6世では演技者として垢抜けた彼に驚いた。

重い精神疾患のシャルル6世は登場から最後までずっと夢とうつつの間を往復していた。イザボーに暴力を振るったり、泣き出したり、妄想に駆られたりする時は、ゾッとする顔付きと激しい歌。特に初めて発作が出た直後の演技はすさまじかった。

私個人、なまじ知識があるから色々な想像をしていたが、リアルにこんな症状が出るだろうなと思えた。相当勉強したのではないか。

同時に、私の中にあった上原さんの印象を打ち砕いた。あのカッコ良かったロベスピエールがこれを?!と。

だが初めて発作が出た後、必死に呼びかけるイザボーが最愛の妻だと分からなくなってしまう。その場面でのデュエットが圧巻だった。発作の最中だから、感情の爆発というより本能の暴発。それでいて音程は正確そのもの。見ていられないほど激烈な場面なのに耳が幸せなのだ。

その後も、夢とうつつの狭間を行ったり来たりしながら妻に暴力を振るい、「何もわからなくなってしまう前に私を消してくれ」と懇願する。

この一言でイザボーは悪女になる覚悟を決めるわけだが、心から愛し合っている相手が分からなくなってしまう恐怖、自分を失ってしまう恐怖が強く伝わり背筋が寒くなった。

逆に、正気のシャルル6世は涙が出るほど理想的な夫だった。幸せだった昔の回想シーンはおそらく、上原さんも王弟ルイ役の上川さんもほとんど素の状態。満面の笑みとユル~イ空気感で客席の笑いを取った。仲の良さはいたって普通。権力争いさえなければ、こんなに平和でアホな兄弟でいられるのに。

上原さん最大の見せ場は、トロワ条約を結んだ直後。夢の中でイザボーに愛を語りかけるシーンだと思っている。

あるのとないのとでは救いが全然違う。女性はたった一人愛する男性に認めてもらえれば、世界中を敵に回そうが、誰になんと罵られようが満足なのだ。

イザボーとシャルル6世にはそれが叶わなかった。しかし、人生で一番辛い決断をしたとき、夫がそう言ってくれれば安心する。そんな夢を見たシーンは、作品全体でいちばん切なくて辛かった。

歌のすごさはずっと変わらず、役者さんとしては一皮も二皮も剥けた上原さん。こんなことを言ってはおかしいが、デビューからポツポツと彼を拝見してきた私としては、部活のセンパイの成長を見ているような感慨があった。

上川一哉さん(ルイ)何が欲しかったのか、問い続けたまま終わった人生

上川さんを拝見するのは初めて。劇団四季出身とのことだが、『リトルマーメイド』は日本初演のエリック王子だし、『人間になりたがった猫』『ユタと不思議な仲間たち』『恋に落ちたシェイクスピア』は軒並み主演。腰を抜かすような経歴だ。

第一声を聞いてものすごく驚いた。声そのものがピンクの吐息。この声で妻を愛し、イザボーの孤独に寄り添って兄から横取りし、政敵ブルゴーニュ派を皮肉る。

日本語は母音が多いので16ビートが合うと石井さんがどこかで書いていたが、日本語の特徴を生かしたアップテンポな芝居歌を一番多く歌ったのはこの人だろう。
その歌が信じられないほど正確に自然に話すような滑らかさだった。パワーの上原兄、甘さの上川弟といったところか。

女性にだらしない、というのがルイ最大の特徴だが、愛はあるのだとは思う。でなければ妻からあんなに愛されることはない。おそらく女性が落ちずにいられない優しさを見せるのが得意。

イザボーのお腹が大きい時は労わるし、ブルゴーニュ公親子のような女性を傷つける言葉を軽々しく言わない(あくまでこの作品の中での話だが)。代わりに言葉巧みに誘う。ピンクの吐息を静かに揺らしながら。

しかし、イケイケだな~と思っていたのに2幕で最後の場面を迎える前、しょんぼりしているのだ。自分のやってきたことの虚しさに気づいてしまった。

イザボーが欲しかったのか、イザボーを利用して王座が欲しかったのか、だったら今の自分はなぜこうなったのか。答えを見つけられないまま、ジャンの刃にかかってしまう。
あまりにも突然に。イザボーと同じくらい「ざんねんな」人生じゃないか。

歴史上の脇役に甘んじてしまったルイの哀しさ。上川さんの軽やかな身のこなしと皮肉たっぷりの歌や台詞回しで、その人間臭さが妙に心に深く刺さった。

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