2025年1月~2月に日生劇場で日本3度目の上演が予定されている『ラブ・ネバー・ダイ』。あの超大作『オペラ座の怪人』の続編としてロイド・ウェバーが新たに書き下ろした。音楽はもちろん、前作を引き継いだ難解で流麗な曲たち。ファントムやクリスティーヌを演じる俳優さんも気合を入れて選ばれている。
この記事では、2025年版に新キャストとして作品に加わった俳優の皆様をご紹介。過去の出演作や特技などを紐解き、注目の場面や楽曲とともに語っていきます。是非最後までお楽しみください!
※前作までに同じ役でご出演の方々は省いていますのでご了承ください。ネタバレ注意です。
橋本さとし/ファントム
橋本さんを初めて生の舞台で拝見したのは2011年夏の『三銃士』アトス役。強烈だった。「クリスタルの天使」でミレディへの愛と後悔を絶叫するような歌唱が、石井一孝さんと岸祐二さんとのユニットMon STARSのデビューアルバム「Lights and Shadows」に収録されている。
ほかに『ミス・サイゴン』エンジニア役や『レ・ミゼラブル』ジャン・ヴァルジャン役、『アダムス・ファミリー』ゴメス役、『メタル・マクベス』マクベス役などなどなど。40歳くらいで突如大型ミュージカルに現れ、強烈な個性で様々な大役をかっさらっているような印象。
なんたって大阪出身のオモシロおじちゃん。ロックバンドのKISSをはじめハードロックが大好きなので、歌もロックを得意とする。若かりし頃は劇団新感線で修行した。
彼のファントムで一番注目したい場面と歌はズバリ、クリスティーヌの息子グスタフを連れ、自分が作った見世物小屋ファンタズマの奥底まで見せて回るThe Beauty Underneath。このとき、彼はまだグスタフが自分の息子だと知らない。しかし彼がピアノで即興の曲を弾き語りしたのを見て薄々気づいている。
自分が求めてきた「深層に潜む美」を理解できるかと期待し、グスタフに見世物小屋で雇われている異形の人々を見せた。グスタフは恐れもせず、「不思議だけどとても美しい」と喜んだ。自分の知らなかった世界が広がったことに興奮している様子。
だったら、自分の醜い顔も恐れず受け入れてくれるかと思いきや…まあ、10歳だとちょっときつかったかな(汗)。5歳だったら逆にイケたかも?
他の曲がクラシカルなのに、この曲だけはロックの要素が強い。『オペラ座の怪人』でファントムとクリスティーヌが初めて地下世界を旅した場面でのテーマソングにリズムが似ており、エレキギターとプログレッシブ・ロックのような流麗なメロディが特徴。
きっと橋本さんファントムは、他のファントムの誰よりもこの曲に合っているはずだ。
笹本玲奈/クリスティーヌ
笹本さんは元メグ・ジリー。13歳で『ピーターパン』タイトルロールを演じ、今でも台詞を覚えているほどに思い入れが深いらしい。高校生のころに『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役、立て続けに『ミス・サイゴン』キム役も。
記憶に新しいのは『ジキル&ハイド』で最初はエマ、直近の2度の公演でルーシーを演じたこと。幸いにも私はエポニーヌとルーシーを拝見したが、地声も裏声もものすごく真っ直ぐ。女神というより天使のようだと思った。本当に癒される。
笹本さんクリスティーヌで一番注目すべき場面は、グスタフが「パパに愛されてないのかな」とションボリしているところに歌いかけるLook With Your Heart。優しいママっぷりを見せつつも、これから明かされる残酷な真実をほのめかす歌。
そして息子にとって、物事を上っ面だけで判断せず内側に隠れた美しさに目を向けられるよう一番大切な教えとなる歌。
もうひとつ、ファントムと10年ぶりに対峙するBeneath a Moonless SkyとOnce Upon Another Timeも。ここはアリアではなく芝居歌が3曲くらい立て続けに歌われる。月のない夜に狂おしく求めあった10年前を思い出しながら激しく言い合う2人。
愛していたのになぜ去っていったのか。どんな気持ちで空白の時間を過ごしてきたか。失われた年月を取り戻せるか。
ルーシーで見た芝居歌の緊迫感が忘れられない私としては、彼女がどんな感情の機微を見せながら息子とファントムと歌での会話を繰り広げるのか楽しみで仕方ない。
真彩希帆/クリスティーヌ
なにを隠そう真彩さんは宝塚娘役トップ時代と東宝で『オペラ座の怪人』アナザーバージョン『ファントム』のクリスティーヌ役を演じた。まったく違うキャラと設定の、同じ役。ロイド・ウェバー版の10年後を演じるなんて粋だねぇ~!変身っぷりが本当に楽しみ!
真彩さんと笹本さんは『ジキル&ハイド』でも同じ役、ルーシーを演じた仲。残念ながら私自身は真彩さんのルーシーを観られずに終わってしまったが、幸運にも石井一孝さんのビルボードライブ横浜コンサートで「危険な遊戯」を聴くことができた。椅子から落ちそうになるほど鬼気迫るデュエットだった。
真彩さんは『天使にラブ・ソングを』のシスター・メアリー・ロバートが、私の中で日本のベスト・メアリー・ロバートでもある。中2病の延長のような少女が歌う「生きてこなかった人生」が、本当に「芝居歌は台詞にメロディがついただけ」とはこのこと!と思えるくらい飾らない歌い方。
それでいて安心のソプラノ。ほかのメアリー・ロバートだと修道院から出た後の人生が心配になるが、なぜか真彩さんだけはどこで何を選んでも大丈夫だろうと思えるような芯の強さがあった。
真彩さんの注目ポイントはやっぱり、ファントムのために歌う「Love Never Dies」。彼女のソプラノは、悩みを抱えた心を丸洗いしてくれる。この曲はファントムがクリスティーヌに歌ってほしいと願いを込めて作ったから、彼女が歌うことで2人の思いが同じだと証明することになる。
そんな、1曲を通した愛の確かめ合いを真彩さんの歌で聞いたら、涙なしでいられるだろうか。
星風まどか&小南満佑子/メグ・ジリー
星風さんも元宝塚娘役トップスター。いくつか映像を見たが、コメントによく書かれているような可愛さだけではなく歌がいい!なんと宝塚100期生。歌の実力からだろうか、入団後すぐに大役を次々と背負い、同期の中でも最初にトップとなった。
プレッシャーは如何ほどのものだっただろうと思うが、なんたって入団3年目にして成し遂げた快挙。その後合計で6年トップを務めた。
小南さんはバレエとオペラで大活躍。物心つくかつかないかのころからダンスに親しみ、子供のころからミュージカルに憧れて出演もし、歌へも貪欲さを見せていた模様。高校生から声楽科へ進学し、東京国際声楽コンクール(高校生の部)やジュリアード音楽院声楽オーディションで受賞。東京音楽大学在学中に『レ・ミゼラブル』のコゼットを3度演じた。
すごい。お二方ともすごい経歴。歌もダンスも抜群の若手とお見受けした。
メグはショーでの見せ場もあり、華やかな衣裳で歌い踊る場面はもちろん必見。しかし母やラウルとやり取りする芝居歌の緊迫感がなかなかだ。今まで溜めに溜めた暗い感情を爆発させるラストシーンはいたたまれない。
メグは天真爛漫に見えて、実は母の言いなり。クリスティーヌの陰に隠れてしまい、理想のキャリアを歩めていない。ファントムのために働いて長い年月を過ごしても振り向いてもらえない。そんな劣等感に苛まれる役どころ。
華やかなキャリアの裏できっと努力を積み重ねてきたに違いないお二方が、作品で誰よりも複雑な背景を持つメグとどう対峙するかワクワクする。
春野寿美礼/マダム・ジリー
春野ママがついにマダム・ジリーに!!記憶に新しいのは『CROSSROAD』テレーザ(パガニーニのお母さん)、『ロミオ&ジュリエット』マダム・キャピュレット(ジュリエットのお母さん)。母親の役を多く演じているが、理想的な温かい母から毒親まで様々。
特にマダム・キャピュレットがジュリエットに望まぬ結婚を強い、ついでにジュリエット出生の秘密も明かしちゃったヤバイ場面。危険だった…めちゃくちゃ色っぽくて怖いくらいだった。
Youtubeで何度も見てしまうのは『モーツァルト!』の「星から降る金」。なんて貫禄なのだ。で、個人的に春野さんを初めて拝見したのは宝塚花組男役トップお披露目の『エリザベート』トート閣下で度肝を抜かれたあの時。
そんな春野さんが、今度はマダム・ジリー。マダムはファントムの発見者であり、いつもそばについてきた大恩人。娘メグの幸せを考えている様子は描かれず、娘が持っている才能をファントムのビジネスのために使う。そして第1幕の最後を怒りの独唱でビシッと締める。
なんのためにファントムを支えてきたか。少しくらいお返しがあってもいいはずなのに、息子だなんて…でも、彼女は少なからず憎しみを抱いていたと思えるのに、クリスティーヌにもグスタフにも決して悪の手を伸ばさなかった。
そこが、いい人なのだ。悪い人になりそうなのにならなかった。その狭間でなんとか正気を保った。冷静と狂気の間で戦ったマダム。春野さんが新しいママ役を演じるのが楽しみで仕方ない。
いかがでしたか?物語はツッコミどころ満載ですが、俳優さんのラインナップを見ると楽しみになるでしょうか?日生劇場は帝国劇場や赤坂ACTに比べれば良心的なお値段ですし、ご興味のある方はぜひ劇場へ!
『ラブ・ネバー・ダイ』あらすじ深読み考察もしています。記事はこちらからどうぞ!
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