「ゴースト&レディ」を生んだ匠たち!原作者と劇団四季の制作陣をご紹介♪

劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』を語るシリーズ第4弾!舞台上で描かれる歴史や登場人物に命を吹き込んだ制作陣を語ります。

なんてったって原作漫画の作者が本作を書いたきっかけから舞台裏のクリエーターさんに至るまで、いくつもの奇跡の出会いによって生み出された奇跡の作品なのですから。

公演プログラムを要約しながら補足情報を追加し、様々な方面のスペシャリストをご紹介します。是非とも最後までお楽しみください。

原作漫画の作者、藤田和日郎氏

10億分の1の奇跡がナイチンゲールと幽霊の物語になった!

Think Bigger」とは発明やビジネスでの成功法として語られるが、つまりこういうことなのだ。描きたいネタの引き出しをたくさん持っていることと、その組み合わせを間違えないことが肝心だ。

原作の誕生秘話を読むと痛感する。一つ一つはどんなネタであれ、複数のそれが上手に組み合わせられるとどんなトンデモナイものが生まれるか。可能性は計り知れない。

ミュージカル『ゴースト&レディ』の原作は、藤田和日郎氏による漫画『黒博物館』シリーズのひとつ。藤田氏が語るには、本作は編集者さんが持ち込んだ奇妙な歴史的資料がなければ生まれなかったとのこと。

その奇妙な史料とは、「かち合い弾」。弾丸と弾丸が正面衝突してできたオブジェとのことで、弾丸の後ろの形だけが残って前が溶け合っている。形はUFOのような、失敗してクリームがはみ出たマカロンのような。

クリミア戦争でロシアとフランスが戦った時の遺物だが、それができる確率はなんと、10億分の1。

よく残ってたよね、そんなもの。誰がどこでどうやって拾ったの?と首をかしげてしまうような歴史的遺物ではあるが、ともかくそれをきっかけにナイチンゲールのことを調べた。

「思い込んだら~」といわんばかりの卓越した行動力にぶっ飛び、「ただの箱入り娘がどこまで行けるか」の可能性の大きさを考えさせられたとのこと。

新しいアイデアであるナイチンゲールと、以前から持っていたシアターゴーストのネタは、同時代の同じ国のこと。もう一緒にするしかないよね…その組み合わせができた時点で想像力が爆発しそうだ。

藤田氏によれば、ナイチンゲールは歴史的に見れば偉人や聖人と呼ばれるかもしれないが、一生懸命頑張っている一人の女性としても魅力的。

その素晴らしさを一番近くで理解し見守るのが「かつて人間だった、人外のもの」であるゴースト。だからこそナイチンゲールの人間臭さに焦点を当てたとのこと。

弾丸の遺物がよくぞここに繋がったな。ミュージカルでは描かれなかったが、かち合い弾は漫画の中で黒博物館の展示品として登場する。アイデアの飛ばし方に唸るしかない。

脚本と歌詞を書いた天才、高橋知伽江

美しい韻を踏み、自然な言葉としてスッと心に響きわたる歌詞。
文学の国イギリスの上品な言葉遣い。
スピード感がありながらも分かりやすくファンタジーに溢れる展開。

そんな素晴らしい脚本と歌詞を手掛けたのがこの人。『アナと雪の女王』で「Let it go, let it go」に「ありの~ままの~」と訳詞を付けた人といったら誰でもピンと来るであろう、高橋知伽江(たかはしちかえ)さん。翻訳家・訳詞家・脚本家として何作品ものヒットを飛ばすベテランである。

お稽古場での顔合わせで高橋さんは、ナイチンゲールとグレイという孤独な2人の出会いが1+1=2以上の奇跡に変化すること、決断と行動を繰り返して生きる人々の姿を観客の心に響かせたいと語ったそう。

少なくとも私は狙いどおり、現実ではそんなことあるはずないのにフロー(フローレンス・ナイチンゲールの愛称)はグレイがいなければあそこまで行けなかったと思わざるを得ないし、歴史を変えた看護団の活躍やフローが信じて行動した成果に胸をガンガン打たれた。

なんと高橋さんはもともと、劇団四季の創設者で社長・浅利慶太さんの秘書だったとのこと。子供のころから観劇好きで、稽古場で現場を見てプロの世界を学び、東京外国語大学ご出身とのことで輸入物の作品の翻訳を担当するようになり、やがてオリジナルも手掛けるようになった。

彼女が関わった作品リストを見ると驚愕する。

  • 劇団四季の翻訳では『クレイジー・フォー・ユー』
  • ディズニー映画の吹き替えでは『アナ雪』以外に『魔法にかけられて』、『塔の上のラプンツェル』、『美女と野獣』(実写版)
  • オリジナル作品では
    『バケモノの子』(劇団四季、あの細田守監督の長編アニメ映画)
    『COLOR』(新国立劇場、原作は坪倉優介著「記憶喪失になったぼくが見た世界」)
    『Romale ~ロマを生き抜いた女 カルメン~』(梅田芸術劇場、花總まりさんがカルメンを演じた意欲作)
    『生きる』(ホリプロ、黒澤明監督の同名映画)。

どれもこれも有名だ。人生を考えさせられるようなオリジナル作品を多く生み出しているところが印象的。『ゴースト&レディ』もナイチンゲールとグレイの人生が色濃く描かれる。

公演プログラムに掲載されている藤田氏のインタビューによると、高橋さんとは何度も何度も脚本の打ち合わせをした。より藤田氏の描きたかった世界観に近づけるようにとコミュニケーションを欠かさなかったとのこと。

その中で唯一、二人の意見が長いこと合わなかったのが、フローとグレイが最終的に恋人同士としてハッピーエンドを迎えるのかどうか。

これは致命的なネタバレになってしまうので書かないが、胸を掻きむしられる。切なくて優しくてたまらない。まだ観ていない方、ぜひぜひ劇場で二人を見守ってほしい。

英米で絶大な信頼を置かれる演出家、スコット・シュワルツ

この人が指揮を執ってこの名作が生まれたんだと思うと感慨深い。演出家に彼を起用した劇団四季の英断に拍手を送りたい。

演出家は脚本、俳優さんの選出、演技、セット、照明、衣裳にいたるまですべてを管轄する。劇団四季が世界に撃って出るオリジナル作品を生み出すとき、日本人の中だけで凝り固まることをしなかった。

その代わり、ブロードウェイやウェストエンド、ドイツ、韓国など様々な国で演劇のノウハウを経験した人を演出家として迎えた。

このグローバルな時代、国内の日本人の血を引く人間だけで純国産を作るとか、日本産ならブロードウェイと違うものを作るぞとか、劇団四季なんだから浅利慶太の子飼いが作らなければとか、そんな狭い考えに囚われる必要など全くないのだ。

スコットは劇団四季が上演した『ノートルダムの鐘』でも演出を担当。過去の演出作品で日本人のミュージカルファンにピンと来るものは、『MURDER for two』(日本)、『プリンス・オブ・エジプト』(ウェストエンド)、『ビッグ・フィッシュ』(韓国)あたりだろうか。

制作陣一人一人の名前をインタビューの中に登場させるところに、チームワークや人への敬意をいかに大切にしているかが表れている。きっと温かい人なのだろう。

劇団四季からオファーを受け、原作漫画の英語版を最初に読み、「打ち寄せる波のよう」に冒険と危険がはらむ物語と複雑な人間ドラマに感銘を受けたそう。その物語の骨子を崩さないようにしつつも、漫画とは違う演劇というエンターテインメントとして最大限に面白いものにした。

イリュージョンを使って人の生死やゴーストの超人的な能力を自在に描いたり、ピーターパンなどで使われるフライングの技術で幽霊が空を舞う場面を描いたり、長年の付き合いがある振付家さんとタッグを組んでファンタジーの世界をダンスで表現したり。

次から次へとアイデアが溢れちゃって仕方ない、という印象を持たせる。

終わりに

制作陣の顔ぶれを公演プログラムで観ると、その国際性にまず驚かされる。これはもう、日本国内だけで上演することなんて考えていない。絶対に数年以内にブロードウェイとウェストエンドに行ける。そのお膳立ては既にできている。

もう日本人と外国人のコラボだなんて言わせない。ニューヨークやウェストエンドと同じ。様々な人種や国籍の、様々な分野のクリエーターが集うとこうなるんじゃい!参ったか!という満足げな顔さえ思い浮かべることができる。

まだまだ何度もこの作品を観たい。そうしたら高橋さんの繊細な言葉遣いをもっと深く味わい分析できるだろうし、演出やイリュージョン、ダンス、ちょっとした小物遣いももっと頭に残るようになるだろう。そして海外に出た時は世界の人々にどんな感動を届けるか。

この作品の成長に期待したい。

こちらの観劇録にあらすじや登場人物についての感想を載せています。是非どうぞ!

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