観てきましたーっ!観て良かった!すっごく良かった!ほんとに良かったぁ!
劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』。なんじゃこりゃというくらい感激の嵐の中にいます。感想と考察を語りまくるシリーズ開催、即時決定です(笑)。第1弾はあらすじ、音楽や演出についての感想、そして登場人物をご紹介します。
まだ一度もご覧になっていない方で今後の観劇予定がある方は、ネタバレ注意です。予習はぜひ、この記事ではなくこちらのナイチンゲールについての記事をどうぞ。
既にご覧になった方、この記事でぜひ楽しく感動を共有しましょう♪
劇団四季「ゴースト&レディ」あらすじ
シアター・ゴーストがフローレンス・ナイチンゲールに憑りつく!?
絶望する女性に幽霊が憑りつくという設定を聞いた人は、ファンタジーを想像するだろう。その通り、半分はファンタジーを織り交ぜたエンターテインメント。作品の中でも語られるが、『ハムレット』や『クリスマス・キャロル』に登場する幽霊たちも登場し、めちゃくちゃ楽しいダンスを繰り広げる。
しかし主人公フローレンス・ナイチンゲールは言わずと知れた、19世紀イギリスの看護婦。彼女に憑りついていた「シアター・ゴースト」って何のこっちゃ?
それは劇場に棲みつく幽霊のことで、実際にロンドンのドルーリー・レーン劇場に棲むと噂される「灰色の男」、名前はそのままグレイ(=灰色)。
フローレンス・ナイチンゲールは彼の噂を聞きつけて劇場を訪れる。結婚を拒否して看護の道を志し、家族からほぼ軟禁状態にされたまま32歳になってしまった彼女は絶望していた。
「私をあの世に送ってほしい」と頼むフローレンスを最初は相手にしないグレイ。金持ちの箱入り娘が自分のやりたいことをやらせてもらえないから、すねかえったのだとナメくさっていた。
しかしフローレンスは、会えば家族がどんなに頑なか分かると、グレイを供って家に帰る。
グレイの目の前に現れたのは、フローレンス…愛称フローに求婚する貴族の男と、結婚話にホッとするような家族。しかしやはり、フローは結婚を拒否。貴族の男は「二人とも考え直す時間が必要だ」と帰ってしまい、家族はフローをなじる。
申し分のない縁談だったのに。女が結婚もせず、しかも裕福な家に生まれたのに貧しい人を相手にする病院で看護婦になるなんて。看護婦と患者が規律や風紀を乱している問題を知らないのか。
そんな、口汚くフローを罵る家族に怒りを覚えたグレイはブチ切れる。自分の剣先を家族たちの胸に触れさせ、霊力によって一時的に魂を麻痺させた。フラフラとOKを出す家族。
でもゴーストの霊力で魂を麻痺させるって…そんな簡単に行くかーい!そこだけ妙にファンタジーすぎじゃーい!(笑)
と客席でツッコミを入れつつも、まあそんな感じで家族の了解も得ないまま無理やり家出したみたいだったのだろうと解釈。
いずれにしろ、やっと看護婦への夢を取り戻したフロー。グレイはここでいったん、フローを憑り殺す機会を失ってしまうのだが、フローはグレイにクリミア戦争にまでついてきてほしいと頼む。
そこは芝居好きのグレイ。夢に破れ、悲劇のどん底に突き落とされたフローを手にかける方が面白そうと判断。「シェークスピアの悲劇みたいじゃね?観る専だったけど、俺が主役になれそう?それ、よくね?」という感じだ。
そしてクリミア戦争の従軍看護婦になるフローが、現地でつらい思いの末に再び絶望したら、グレイが彼女を手にかけるという約束を交わす。
グレイを守護霊に、フローはクリミア戦争の病院で無敵モード突入
看護婦志願者たちを引き連れ、クリミア戦争中のトルコ、スクタリ陸軍野戦病院へ向かうフロー。そこに待っていたのは軍医たちの拒絶と、看護婦たちから求められるリーダーとしての重圧だった。
しかし、マネジメントやリーダーシップを勉強している会社員の私から見てもナイス!と思える方法でフローは男たちの懐へ飛び込む。食料や衣料がたくさん届いた機を見計らい、「たくさん届きすぎちゃって保管できないから助けて」と迫るのだ。
支援物資は有難いし、患者は多いし、上から目線でもなく下からお願いされるのでもなく、否が応でも看護団を受け入れざるを得なくなった男達。そんな軍人たちをニヤリと横目で見ながら、フローと看護団は病院の衛生状態や栄養管理を次々に改革。
グレイが「暗いから安全に」とくれたオイルランプの灯りを手に、フローは夜の病棟へ見回りに行く。いつしかフローは「ランプの貴婦人」と呼ばれ、天使のように傷病兵に慕われる。
フローは野戦病院で失敗したらすぐグレイに望みを叶えてもらえるという保険がある。そして他の誰にもフローに害を与えさせないと決めているグレイは、結局フローのボディガードに。
あんなに切実に命を終わらせたいと思っていたのに、フローは野戦病院でむしろ無敵モードに突入した。
悪役ジョン・ホールとデオン・ド・ボーモン
そんなフローを憎んでいる男がいた。軍医長官ジョン・ホール。最初、フローをねじ伏せようとしたがグレイに魂を麻痺させられて引き下がった。ゆえに、フローに病院を乗っ取られたと考えているジョン・ホール。
貧しい家の生まれからのし上がったために、自分の出世のことしか頭にない彼は、もう一人の幽霊に命じてフローを抹消しようとする。
その幽霊とはデオン・ド・ボーモン。なんと、かつてグレイの命を奪った張本人でもある。
グレイもデオンも「決闘代理人」、つまり身分の高い貴族などが誰かと決闘したい時、その代理として戦うプロだった。グレイは生まれてすぐ親に捨てられ、引き取られた家に捨てられ、最後は愛した女性に捨てられ、その女性が差し向けたデオンの剣にかかった。
「裏切りに始まり裏切りに終わった人生」。そしてデオンもまた、本当は女なのに男として生きさせられていたという悲しい人生だった。
フローの命を狙うデオンと、デオンを引き留めようと戦うグレイ。しかしそのグレイをかばって、フローはデオンのナイフを受けてしまう。重体になったフローを救うため、自らの霊力をフローに与えるグレイ。いつしか二人の間には愛が芽生えていた。
グレイの孤独な人生と孤独な最期を知ったフローは、彼が自分のそばにいてくれることに強い安心感を覚えるように。
グレイは、希望に燃えるフローの生き方を理解し、守りたいと思うようになっていた。彼女が絶望しそうにないことも知っていた。
第1幕最後、満天の星の下で近づきつつ、すれ違いつつ歌うフローとグレイのデュエットはたまらなく切ない。人間と幽霊の恋という物語自体は珍しいものではないかもしれないが、クリミア戦争の野戦病院で、フローレンス・ナイチンゲールと幽霊だなんて。
一度は死を望むほどに人生を諦めかけたのに、グレイのおかげで生きがいを取り戻したフロー。昔、愛に敗れて人生が終わってしまったのに、フローの真っ直ぐな生き様を見てもう一度愛を信じたくなってしまったグレイ。
フローとジョン、グレイとデオンの対決
ジョン・ホールはフローを今度こそ手にかけようと、スクタリ陸軍野戦病院から遠く離れた雪の平原にフローを呼び出す。
ジョンはフローを偽善者と呼ぶが、フローは叫ぶように訴える。病院が酷い状態だったのはあなたのせいだ。偽善者でもいい。ただただ命令に従うことより変化をもたらす方がマシと。
そんなフローを殺そうとするデオンと、阻止するグレイ。幽霊同士の決闘はフライングを使って空を自在に飛びながら剣劇を繰り広げる。雪をまき散らしながらの決闘の末、グレイとデオンは相打ちになり、ともに消え去ってしまう。
あまりの悲しみに泣き叫びながら「あなただけは許さない!!」とジョンに銃口を向けるフロー。しかしグレイの声がこだまする。「おまえは穢れるな」……グレイの名を呼びながら雪の中に崩れ落ちるフロー。愛するあなたを失った今こそ連れ去ってほしいのに、どうしていないの…?
そして50年後
フローレンス・ナイチンゲールは90歳で生涯を終える。そこになんと、デオンの剣が心臓をわずかに逸れたおかげで回復したグレイが迎えに来てくれる。フローとグレイは愛を確かめ合うも、グレイは一緒に天国へは行けない、まだ観たい芝居があるからと言う。
旅立っていくフローを見送ったグレイは、芝居を締めくくる。そう、このミュージカルは字が書けないグレイが様々な作家に憑りつきながら100年かけて作り上げた、愛するフローの物語だった。
天国のフローに向かって、作品の完成を報告するグレイ。その声に応えるのは、静寂だけだった。
しかしフローは天国から、確かに彼の芝居を見ていた。彼が野戦病院でくれたランプを手に、そして彼女の背中を追った女性たちが提げる無数のランプの光に包まれて。
胸を締め付けられる歴史と教訓
時代と実在の人物たちを反映した物語
登場人物の大半は実在の人物。
「灰色の男」は今もロンドンのドルーリー・レーン劇場にいるとされる。
看護婦という仕事を「白衣の天使」にしたフローレンス・ナイチンゲール。
保身のために彼女の前に立ちはだかったジョン・ホール。
外交官やスパイなど闇の世界で活躍したデオン・ド・ボーモン(生前はシュヴァリエ・デオン)。
上には書かれていないが大英帝国ヴィクトリア女王と、フローがクリミア戦争の従軍看護婦になる決意のきっかけになった「タイムズ」紙記者のウィリアム・ハワード・ラッセル。
泣く子も黙る歴史上の偉人ナイチンゲールと、彼女と同じ時代を生きた人々が繰り広げる物語。
人物だけではない。簡潔な台詞や舞台装置の中に様々な情報が詰められており、これだけで歴史の勉強ができた。
クリミア戦争当時の地図や看護団が渡った航路。
野戦病院でシーツや着替えなど全くなく、食事も酷く元気になどなれる代物ではなかったこと。
下水の不整備で糞尿を含む汚水が溢れ、その水が壁に染み込んでいたこと。
その衛生状態の悪さでコレラ等の感染症が流行り、負傷そのものより戦病死する兵士が多かったこと。
そして、フローが作っていた円グラフ。舞台の床面にも大きく絵描かれている。これはフローが開発した医療統計学の最重要項目なので、ほんの1分ほどの場面ではあるが絶対に逃すことはできない。
さらに、象徴的に使われていたのが「サムシング・フォー(something four)」。「何か一つ古いもの・新しいもの・借りたもの・青いもの」という4つのものを、花嫁に贈ることで幸せを願うという習慣。マザーグースが出典で、ロイヤル・ウェディングでも使われているらしい。
フローに貴族の男性が結婚を申し込んだ時にも出てきた。そのとき貴族の男性がフローにプレゼントしようとしたものは、みんな宝石やレースといった贅沢品。まあ、普通はこれだろう。
しかしこれは、第2幕ラストシーンでもう一度繰り返すからこそ効いてくる。グレイが、人生を終えたフローが天国に昇る前、「サムシング・フォー」を渡すのだ。
何か一つ古いものは、グレイ。
何か一つ新しいものは、フローが作った看護の制度や教育。
何か一つ借りたものは、フローの家にずっと大切にしまっておいたランプ。
何か一つ青いものは、これからフローが昇っていく青空。
グレイらしい、クスッと笑えて涙が出てくるような、愛に溢れる場面だった。フローが築き上げた看護の道を讃えてくれるグレイの思いと、「ランプの貴婦人」の持ち物。
何を隠そう、「ランプの貴婦人」はグレイによって作られた。夜の見回りが危険だからとグレイが「持って行けよ」と手渡したのがきっかけだった。彼の愛を両手に受けて、フローは旅立った。
こんな風に、歴史の勉強もできて人々の思いが同時代を変えていったかを目撃することができる。知的好奇心が刺激される。マザーグースがファンタジックな大人の愛に変身する物語にも心を打たれる。
行動で示し、結果を出すことの大切さ
胸が締め付けられるほど辛い場面もあった。ものすごく考えさせられた。
まず家族が口をそろえてフローの看護婦への夢を全否定する場面。高校生の頃の私だったら全面的にフローの味方だったが、今なら家族の言い分も分かる。まあ仕方ない。19世紀という時代を思えば、家族の気持ちは今の私達にも分からないでもない。女性は早いとこ結婚するのが常識。
看護婦という仕事への偏見も甚だしいというか、その仕事自体が今の「白衣の天使」とはかけ離れた実態だった。
女性が結婚もせず仕事したいとか、しかもせっかく恵まれた環境なのに貧しい女性が酒浸りになってサボってたりイカガワシイことしてるだけの仕事にわざわざ就くとか、家族は猛反対するに決まってるわな。
危険な戦地にも、汚い病院にも行ってほしくない。それは分かる。
それに、ただでさえ普通に暮らしてきた人は、普通を打破しようとする人の可能性を否定したがるもの。階級意識の強いイギリスなら尚更。
そこを口で説得するのではなく行動と功績によって納得させたフローは見事だった。あのとき結婚を断られた貴族の男性もいい人だった。プロポーズする時も決して高慢などではなく、誠実な感じがしていたが、自分も野戦病院で働くこととなって再会し、「今なら君が夢見たことの意味が分かる」と言ってくれた時は私もものすごく嬉しかった。
そして第2幕クライマックスでジョン・ホールとフローがやり合う場面。ジョン・ホールの放った「偽善者」という言葉。
私は虫唾が走るほど嫌いだ。今のネット社会には大衆の正義を振りかざして人を貶める、専門家やマスコミの顔をした偽善者だらけ。
私だって、仕事やブログの活動で人の役に立ちたいとか、どこどこに・だれだれに貢献したいとか、そう願いながらお金を稼いでいる時点で偽善者なのかもしれない。そうでありたくない、そうでありませんようにと願うからこそ偽善者という言葉が嫌いなのかも知れない。
ジョンをはじめ病院に勤めていた男達は、何をしたって状況など改善されはしないと諦めていた。軍の規律やら手続きやら面倒なことをイチイチやっても、経費が掛かるだけで傷病兵が治る保証などない。そんな手間をかけるほど価値のある仕事と思っていなかった。
だから、答えを知っているつもりだった彼らにとって、それを否定して新しいことを推し進めるフローを「偽善者」と罵りたくなる気持ちにも一理ある気がする。
でも、そうやって恐れていたら何も前に進まないのだ。「そう思うなら思えばいい。私は貫く」と堂々と答えたフロー。口先だけでなく、やはり行動できちんと答えを出した。
自分の血の滲む苦労を伴う行動と人からの感謝が両方あったから、批判を撥ねつけて大改革を成し遂げることができた。だから偉人なのだ。
もっと言えば、フローはどうも学識高かった父の影響で自らも豊かな学問を修めており、数学や統計学の専門知識を持っていたらしい。
劇中でも円グラフを書いて権力者やマスコミに働きかける場面があった。さらに野戦病院では衛生管理を徹底的に改革したり、組織を拡充したり、帰国後は看護学校を作ったり。
彼女はリケジョであり、その知識を存分に使ってマーケティングも行い、優れたリーダーシップも発揮した。あらかじめ備えていた学問や経済的な背景を駆使し、まさに看護の分野で人並外れた「なんでも屋」をやり遂げた。
2時間半のミュージカルの中でそれらの要素が、ひとかけひとかけ、丁寧に拾われていたのが非常に印象的であった。そこにグレイの視点が加わると、人知を超えた天才だけではなく、一人の孤独な女性としても魅力的に映るから余計に素敵だ。
全年齢層の全人類に全力でお勧めします
最後に言わせてください。色んな意味で一見の価値あり!!
理由①四季劇場【秋】で観るコスパの良さ
この値上げのご時世に、劇団四季も値上げせざるを得ない。しかし帝国劇場やシアターオーブなどで上演される翻訳ミュージカルより断然ありがたいお値段。
しかも四季劇場【秋】は今回初めて行ったが、比較的小さな劇場ということが判明。2階A席でも舞台との距離が驚くほど近い。演者さんのお顔、細かい表情とまでは行かずとも、ちゃんと見える。その意味でもコスパは素晴らしい。
理由②秀逸な芝居歌の数々
正直、音楽は今までの四季の作品でもトップ3に入るくらい上質。魅力はなんといっても芝居歌の多さ。ブロードウェイから輸入した作品の中でも、1曲1曲がシングルカットできるような、わりと独立した曲は多いもの。
ディズニー作品は特に、コンサートでも普通に歌える曲ばかり。しかしこの作品は台詞代わりの歌、物語の流れを作る歌がたくさんある。1曲ずつ朗々と歌う曲というよりは、台詞にメロディがついただけの、ミュージカル特有の「芝居歌」がほとんど。
しかも、韻がとびきり美しい。
『美女と野獣』や『ウィキッド』よりも『レ・ミゼラブル』に近いと言える。これはミュージカル中上級者にはとても嬉しい特徴。でも全編が歌ではなく、しっかりと台詞もあって分かりやすいので初心者の方も抵抗は少ないはず。
理由③エンターテインメントとして全体的に上質
社会派かつ歴史を取り込んだ物語と、素晴らしい曲やダンスを織り交ぜたエンターテインメント性。19世紀イギリスの歴史、ナイチンゲールという人物、クリミア戦争に興味のある人に強くお勧めしたい物語。そこに幻想的な幽霊たちや、歌とダンスでショーアップされた楽しい演出。
実のところ歌とダンスは良くても内容がツッコミどころ満載だったり薄っぺらかったりするミュージカル作品は意外と多いが、この作品は物語もショーも抜群。
最後に
第2弾は歴史的な背景をもう少し語りたいと思います。乞うご期待!
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