2025年1月日本初演の『SIX The Musical』シリーズ第3弾。
前回の記事ではヘンリー8世の1人目の王妃キャサリン・オブ・アラゴンをご紹介しましたが、この記事は予習第3弾として、2番目の王妃アン・ブーリンを特集します。
ソロ曲の翻訳に挑戦し、アンの人物像を紐解いていきます。是非最後までお楽しみください!
アンのソロ曲 Don’t Lose Ur Head【翻訳】
アン:
フランスの宮殿で育った
ウィ ウィ ボンジュール
雑用ばかりの人生
だから
アンサンブル:
彼女は漕ぎ出した
アン:
1522年 イングランドに帰ってきた
イングランド人ってダサいのね
アンサンブル:
痛恨ね!
アン:
歌って踊りたいの
アンサンブル:
政治は?
アン:
向いてない
そこで王に出会った
すぐにパパは言ったわ
「アタックしてみろ!」
彼は明らかに私を欲しがってた
毎日のように手紙を送ってきた
あれほど気持ちのいいものはないわ
私は軽くあしらってた
準備は万端でね
返事を書いたの
「は~い あなたイイ男ね
考えてみるけど
あたしは最高級の女よ」って
さあ行くぞ
まさか彼の妻と一緒に宮廷入りするなんて
人生をつかむぞ!
何するつもりだったっけ?
悪いけど 私は謝らない
面白そうだっただけ
心配しないで
首を斬られちゃダメ
ははは!さあみんなで「行け!」
さもなきゃ地獄行き!
悪いけど 私は謝らない
首を斬られちゃダメ
3人でベッドに入り
妹は言ったの
「結婚したいなら
覚悟を決めて!」
彼女か私か 仲良しだけど
遊び相手の一人じゃイヤ
盲目じゃないわよね?
酷い人ね
私の方がふさわしい
なぜ当たらなかったのかしら
彼はバンしたくはなかったはず
炎上させたかったのよ
ほら来た
アンサンブル:
大炎上ね
アン:
そんなつもりはなかったけど
噂が広まっちゃったね
アンサンブル:
ああアン、国中があなたを嫌ってた!
アン:
あなた 私は何をしたかったんだっけ?
悪いけど 私は謝らない
面白そうだっただけ
心配しないで
首を斬られちゃダメ
誰も傷つけるつもりじゃなかった
ははは!さあみんなで「行け!」
でなきゃ地獄行き!
悪いけど 私は謝らない
首を斬られちゃダメ
駆け落ちしようと思ったけど
教皇が「ダメだ」ってさ
私達の唯一の望みはヘンリー
彼は偉くなったから
動乱を巻き起こして
イギリス国教会を作っちゃった
アンサンブル:
ルールは
アン:
古すぎたの
私達は大人の関係でいたかったの
アンサンブル:
すぐに破門されたね
アン:
みんな震えあがった
すべては神の碁石
ヘンリーは毎晩街に出て行った
女をとっかえひっかえ「何が悪い?」って
それが当然のように
私も男と浮気しようかしら 1人?3人?
彼に嫉妬させるの
ヘンリーは私を見て おかしくなっちゃう
めっちゃイキリ立って
ぎゃあぎゃあ喚くの
このバカな魔女って
あなた、黙って
私はそんなxxxじゃない
あなたがおったつならね
さあ行くわよ!
アンサンブル:
そう言ったの?
アン:
で、彼はこんな感じ
「奴の首を撥ねろ!」
アンサンブル:
うわ!
アン:
本当よ
私 何しようとしていたっけ?
悪いけど 私は謝らない
面白そうだっただけ
心配しないで
首を斬られちゃダメ
誰も傷つけるつもりじゃなかった
ははは!さあみんなで「行け!」
でなきゃ地獄行き!
悪いけど 私は謝らない
首を斬られちゃダメ
1000日王妃、アン・ブーリン
アンの曽祖父は農民出身ながらロンドン市長にまで出世し、祖父の代から貴族の称号を得た。アンは婚姻関係によってコツコツと地位を向上させてきた、いわば新興貴族の娘。
幼少期からフランスにわたり、女子教育を受けた。さらにフランス王家に嫁いだヘンリー8世の妹の侍女として、長年フランスの宮廷で過ごす。当時、英国よりもずっと進んでいたフランスの作法や処世術を体に染み込ませてきた。
帰国するとキャサリン・オブ・アラゴンの侍女となり、そこでヘンリー8世に見初められる。ヘンリーは男子を生まないキャサリンの代わりに子供を産んでくれる愛人を探していたのだ。
ここで、歌の中に出てくる「3人でベッドに入り 妹は言った」という部分に注目したい。実はアンにはメアリーという姉がいた(注:メアリーという名前が多すぎて混乱するが後のメアリー女王ではない)。2人ともヘンリーの愛人だったのだ。
しかしアンは姉のように愛人で終わることを良しとしなかった。王妃にしてくれなければ子供を生むなんてヤなこったと言ったのだ。
なるほど、もし男の子を生むことができたとしても自分の将来はそれで安定とは限らない。地位や肩書がしっかりしていなければ、中途半端かもしれない。罷り間違って本物の王妃に息子ができたら、自分の子は庶子になってしまう。
ジワジワと力を拡大してきた新興貴族の娘に生まれたアンも、したたかな戦略家の血を受け継いでいるのが分かる。不安定で宙ぶらりんな地位に甘んじることなく、将来を約束してくれる基盤を確保したかったのだろう。
結局、キャサリンとの結婚無効が成立する前から別居を始めていたヘンリーは、アンと極秘結婚。カトリックからの独立、イングランド国教会発足、結婚無効の成立が完了すると、すぐにアンの戴冠式が行われた。
しかしアンが最初に生んだのが後のエリザベス1世女王。その次も女児誕生。3人目は念願の男児だったが死産だった。
教会とのすったもんだの末に制度を変え、キャサリンと離婚してまで王妃にしてやったアンが、一番重要な男子を生めない。ヘンリーは一気に愛が冷め、3人目の王妃ジェーン・シーモアに心が移る。
ヘンリーはアンと別れるため、今度は離婚ではなく冤罪で抹消する方法を選んだ。アンは複数の男性と浮気し、王の暗殺を計画したというデッチアゲで反逆罪を着せられ、ロンドン塔に幽閉。斬首にされた。アンが王妃として君臨したのは、たった3年間だった。
女性向け漫画の悪役に出てきそうな美人悪女?
アンのソロ曲を聞き、歌詞を読んで、いい曲だと思えただろうか?ノーと答える方が多数ではないだろうか。
私がソロ曲から受けたアンの印象は、ギャル。フランス宮廷で洗練されたマナーやファッションの影響を色濃く受け、それより少し遅れた英国の宮廷で、侍女の花形スターになり、ヘンリーの目に留まった。
現代の言葉で表現すると、モテ術をフランスで学び、いちばん偉い男の心をガシッとつかんだ。容姿は当時の美女とされていた基準にまったく合っていなかったのに、フランス風のモテ術で国王を勝ち取ったのだ。
確かなのは、美女ではなくてもトップに上り詰めるために、ものすごい知恵を働かせたということ。ラブレターを書くのが苦手なヘンリーがアンに宛てて何十通もの手紙を書いたなんて、どんな方法で惹きつけたのだろうと思う。ギャルではあるがしたたか。
残念な点は、エリザベス1世女王という素晴らしい娘を遺したこと以外に、国民から尊敬される王妃の素質はなかったということだ。
キャサリン・オブ・アラゴンは女性君主としてプロフェッショナルな仕事ができ、国民から人気を得た。ヘンリーよりも教養高くて嫉妬されるほどだった。
一方のアンはというと、歌にあるように政治には向いていなかった。というか、政治を勉強したことはない。王妃だった時代は贅沢三昧。キャサリン・オブ・アラゴンが亡くなった時にはそれを喜ぶようなダンスパーティーをしていたというのだから、顰蹙ものだ。
男性にはモテるが女性からは好かれない、もしくは人間として必ずしも人心を集める能力はない、といったところか。現代の女性向け漫画で、純粋なヒロインと男性との間を裂いたりとか略奪婚とかをしようとする悪役美女のタイプかも知れない。
宗教改革の歴史に多大な影響を及ぼしたアン
エリザベス1世女王の母にしてヘンリー8世2番目の王妃、アン・ブーリンについて掘り下げました。いかがでしたか?私はあの素晴らしい女性君主の母が、思っていたより3倍くらいギャルっぽくて驚いています。
しかし、ギャルはギャルでもボーっと生きているのではなく、したたかなギャル。容姿の点では同じようにヘンリーの愛人となった姉よりも劣っていたにもかかわらず、ハンデを克服して上り詰めたのですから。
しかもアンがヘンリー8世の王妃となったことでイングランドは大きく変わります。キャサリン・オブ・アラゴンと離婚しアンと結婚するために発足させたイングランド国教会は、その後の歴史で多くの爪痕を残しました。
ピューリタン革命。アメリカへの最初の移民(メアリー1世女王がカトリック復活のためピューリタンを弾圧したため)。スコットランド併合などなどなど。
これら宗教改革をそもそもの発端とする歴史を考えれば、モテるために命を懸けたアンの存在がいかに歴史で多大な影響を及ぼしたかが見えて背中がゾクッとするような。
次回は3番目の王妃、ジェーン・シーモアを取り上げます。乞うご期待!
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