「next to normal」入門!タイトルの意味は?あらすじ、登場人物と歴代キャストに迫る【ネタバレ注意】

2024年12月から日本で4度目の上演がある『next to normal』。

チケット代は高いが、この冬にどうしても観たい作品を1つだけ選ぶとしたら、何度も観た『レミゼ』を差し置いてこれにしようと思う。その前に、私と同じようにこの作品の初心者の方がいらっしゃいましたら、ぜひご一緒に予習しましょう。

あらすじ、登場人物と歴代キャストのご紹介、医療の話に加え、この作品は翻訳にも挑戦していく予定。まずはこの記事で入門編をお楽しみください。

登場人物とキャスト

ダイアナ

主人公。双極性障害を患う母親。初演からはシルビア・グラブさんと安蘭けいさん。2022年と2024年は望海風斗さんが演じている。皆様すごい歌姫で演技も素晴らしいと定評のある方々だ。

シルビア・グラブさんは女神の歌声。ボストン大学声楽科ご出身。『レベッカ』のダンヴァース夫人の歌をつい最近拝聴する機会があったが、度肝を抜かれる迫力だった。

安蘭けいさん、望海風斗さんは元宝塚男役トップスター。退団後ももちろん大活躍だが、安蘭さんの印象深い役と言えば『スカーレット・ピンパーネル』のマルグリットだろうか。望海さんは『ガイズ・アンド・ドールズ』のミス・アデレイドが忘れ難いが『イザボー』はすさまじかった。

ダン

ダイアナの夫。長年にわたり妻を支えている。2024年版で演じるのは渡辺大輔さん。彼は『天翔ける風に』で幕末の志士を演じていたのが超カッコ良かったが、『ロミオ&ジュリエット』のティボルトも切なかった。

初演のダンは岸祐二さん。この方は『天翔ける風に』で甘井門太左衛門という、ヒロインの父親役で渡辺さんと共演していた。この方も素晴らしい渋いお声の歌い手。ハードロック大好きとのことで、「ロックミュージカル」と銘打たれたこの作品にキャスティングされたのも納得だ。

ゲイブ

ダイアナの息子。詳しくは「あらすじ」欄に書かせていただくが、ただの息子ではなく物語とダイアナの疾患の秘密を握るキーパーソン。

2022年に続いて2024年も甲斐翔真さんが演じる。なんとダイアナの望海さんとは『イザボー』でも親子役、『ムーラン・ルージュ』では恋人役。

甲斐さんは今やミュージカル界のプリンス。『ロミジュリ』のロミオと『イザボー』のシャルル7世におけるプリンスっぷりが印象的だが、初主演の『デスノート』夜神月が素晴らしかったと耳にしている。

2018年と2022年には海宝直人さんがキャスティングされている。この方も『ムーラン・ルージュ』で望海さんの恋人役だった。海宝さんはなんといっても元劇団四季の看板俳優さん。『アラジン』のアラジン、『ノートルダムの鐘』のカジモドといった、凄まじい歌声を必要とする役をこなしている。

ナタリー

ダイアナとダンの娘。高校生。小向なるさんという若手の女優さんが演じるが、この方は『この世界の片隅に』でヒロインの妹を演じた初々しさと純真さが記憶に新しい。

2022年のキャストが昆夏美さんと屋比久知奈ではないか!!お二方とも『ミス・サイゴン』のキムで圧巻の歌声を日本中に届けている。ナタリーという役がどんなに複雑な歌唱と感情表現が必要とされるか、これだけでも分かる。

昆さんは『レミゼ』のエポニーヌ、『シークレット・ガーデン』のマーサを拝見したが、なんと『ロミジュリ』日本初演のジュリエットがデビュー。屋比久さんはディズニーアニメ『モアナと伝説の海』のモアナ、『天使にラブ・ソングを』のシスター・メアリー・ロバートが最高だった。

ヘンリー

ナタリーの恋人。吉高志音さんは拝見したことがないが、2018年のデビュー以来2.5次元ミュージカルや歌を中心としたショーの世界でご活躍の模様。

2022年キャストに大久保祥太郎さんがいるぞ!大久保さんといえば2022年『ロミジュリ』のマーキューシオ。いい声だった~。アブナイ犯罪者のような目をしていたのが印象的。

ドクター・マッデン

ナタリーの新しい主治医。マッデンはMaddenと綴るが、「mad(狂ったような)」という形容詞が名前に入っているなんて、非常に象徴的ではないか。患者のダイアナよりも、心の疾患を医療で治そうとするこの人こそがマッド・ドクターなのだと言わんばかり。

キャストは中河内雅貴さん。『イザボー』のジャン、『ムーラン・ルージュ』のサンティアゴでも望海さんと共演した。ダンサーとしてもピカイチだがロックを歌っても天下一品のカッコよさ。ジャンの裁判のシーンが楽しすぎて、大盛り上がりの手拍子をよく覚えている。

初演は新納慎也さん。はい、マッド・ドクターね(笑)と言いたくなってしまうくらい強いインパクトの持ち主。残念ながら舞台を拝見したことはないが『Thrill Me』の歌をちらりと聞かせていただいたときは背筋がゾクッとした。『鎌倉殿の13人』の全成がものすごく良かった。

あらすじ(※ネタバレ注意)

アメリカの郊外に住む4人家族。母親のダイアナは双極性障害を患っている。門限を破った息子ゲイブを深夜まで待ち続けるうちに山ほどサンドイッチを作ったうえ混乱してしまったり、繰り返し病院で薬物療法を受ける中で副作用に苦しんだり。

ダイアナが主治医に処方された神経や感情を麻痺させる薬で大人しくなってしまった時、あまりにも感情が動かなさすぎて、たとえ病気でも感情があった時の方が良かったとゲイブにアドバイスを受け、薬を捨ててしまう。

夫のダンが娘ナタリーとボーイフレンドのヘンリーを家に呼び、夕食を一緒に楽しもうとする。しかしそこで、ゲイブはなんと赤ちゃんの頃に亡くなっていたとダイアナは思い出すことになる。ゲイブの死こそが双極性障害の引き金で、ダイアナはずっと症状で幻覚を見ていた。

ゲイブと一緒にいるため命を絶とうとし、未遂したダイアナ。新しい主治医ドクター・マッデンは、薬物療法も心理療法も効かないときの最後の手段として電気ショックを提案。ダンも同意し、ダイアナはショック療法を受けるが、19年分の記憶を失う。つまり、ゲイブの記憶も共に。

ダンはダイアナの疾患の原因となったゲイブの記憶が戻らないよう、息子の存在は隠しておくことを決める。

一方、娘ナタリーは素晴らしい娘でいようと勉強や学校行事を頑張ってきたが、学校のピアノ発表会に両親が来ていなかったことをきっかけに、今まで溜まりに溜まっていたストレスが爆発。母の症状と自分が感じている心の歪みが似ているような気にもなり、神経をすり減らしていく。

そんなナタリーを優しく支えようとするのが、恋人ヘンリー。ナイトクラブで倒れているところを助けたり、部屋でゆっくり話をしたり、ダンスに誘ったりと、ナタリーの不安を解消しようと誠実に向き合っていた。

主治医とのちょっとしたコミュニケーションの交通事故でゲイブの記憶を取り戻したダイアナとダンは喧嘩になる。しかし、娘の精神も不安定になりかけていることを知ったダイアナは家族と自分に向き合う。ダンのことは愛しているが離婚し、それぞれがゲイブの記憶を克服することを決める。

ダイアナは両親のもとへ戻る。ダンは自分の精神を癒す。ナタリーは恋人を得る。それぞれが希望を胸に再出発する。

双極性障害とは?治療法は?

精神疾患の一つで、「極」という言葉からも分かるようにハイな時・幸せな気分の時と酷い鬱状態の時が交互にやってくる。ノンフィクションで読んだだけだが、実際の例では幸せな時は好きなことに集中でき、鬱状態の時は部屋から出て来られないとのこと。

作品中で治療法や薬の名前が言及されるが、心理療法・薬物療法・電気ショック療法など様々ある。しかし、気持ちが落ち着くなどの効果はあっても要は「麻痺して大人しくなる」だけで、体への副作用も重い可能性がある。しかも、治癒することはできない。

『next to normal』というタイトルの意味

これは文字通りに捉えていい。「普通の隣り」という意味だ。

では「普通の隣り」とはどこのことか。観る人によって印象は少しずつ違うかもしれないが、ダイアナとナタリーが初めて正面から向き合う場面で「Maybe (next to normal)」と、タイトルそのままの歌が歌われ、そこに意味が凝縮されている。

治ることのない疾患を抱える母親と、その影響を少なからず受ける娘。いわゆる「普通」にはなれず、そんな生活は遠いものに思えるが、「普通に一歩及ばないけれど近いところ」くらいでいい

普通の状態に一歩及ばない、とネガティブな意味だろうか?それは親子本人にしか分からないし、我々観客も感じ方はそれぞれでいいだろう。

「もしかしたら(maybe)」悪い方へ進むかもしれないが、「もしかしたら」いい方向へ向かうかもしれない。希望を捨てずに生きよう。なんとかなる。そう、なんとかなると信じるだけで、迎える未来は違うかも知れない。

母と娘はそう約束する。この裏で、父もまたずっと逃げてきた現実と対峙する。

「普通の状態」とは何か。普通なんてないのかも知れない。まあそこも観客それぞれの感覚でいい。しかし、ずっと「自分たちは異常だ」という劣等感や不安に苛まれてきた家族が、「その隣りくらいでちょうどいいんじゃない?」と言って前を向くことができるのだ。

普通なんかじゃない。でも、希望はある。そう信じて一歩だけ前に進んだ家族の、ささやかな物語。

ミュージカルの殻を破った衝撃作

恥ずかしながら2013年に日本初演があったとき、タイトルしか知らなかった。今回初めて概要を知って驚いた。

『next to normal』はトニー賞とピュリッツァー賞を受賞。えっ?ミュージカルがピュリッツァー賞をとることってあるの?…と思ったら戯曲の部門があるとのこと。

物語は、郊外に住む家族のホームドラマ。双極性障害と戦う母親と家族と医療の話。ほ、ホームドラマ?

「これ、ミュージカルでやる題材なの!?」

最初にニューヨークで作られたときもそう思われたらしい。完成までに何年もかかり、その間に双極性障害の定義や治療法にも発展があった。その中でコツコツと成長を続け、ついには世界から絶賛されるようになったこの作品。

ミュージカルによくある壮大な歴史ものでもなければサスペンスや爆笑コメディでもない。華やかにショーアップされた場面もなさそうな雰囲気。

しかし、それはエンターテインメント性を削いで、心理描写や社会問題をこれでもかと掘り下げたということではないだろうか。

ミュージカルの殻を破ったと評されたらしいが、この作品はトニー賞で楽曲賞を受賞しており、キャストにも歌の表現が素晴らしい俳優さんばかりを配さなければ成り立たない。

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この作品の予習として歌詞の翻訳と内容の分析に挑戦しました。詳しくは下記のリンクからどうぞお楽しみください。ぜひ観劇前のご参考に。

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