劇団四季のオリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』。
東京千秋楽前日の配信を観劇しました。箱ティッシュかかえて。
もうね、好きすぎて感想語りが止まらないの。心の中でゴーストのように踊っている思いを全部ここに書きます。
作品を作った劇団四季の皆様と原作者の藤田和日郎先生へ。尊敬と限りなき感謝を込めて。これから続く名古屋と大阪の公演を見に行く方々にも届きますように。
なお、私はこれで2度目の観劇でした。旅は2度目のほうが初めての時よりもディープな観光ができるように、観劇も回数を重ねる方が深く作品を味わえるもの。1度だけの観劇では気づかなかったマニアックでディープな感想をどうぞ。
※ネタバレ注意です。
※作品の初心者の方はハテナが飛び交うかと思いますので、こちらの記事を先にお読みください。
マドモアゼル・デオン・ド・ボーモン
雪の中でフロー(ナイチンゲールの愛称)とジョン・ホールが最後の対決をする場面。ここはグレイとデオン・ド・ボーモンの対決でもある。
デオンには切実な願いが、グレイには絶対に守りたい愛があった。
デオンは女でありながらも男に従属する女の人生を良しとしなかった。父親の命令ではあるが男として生きる道を自ら望んで決めた。でもそれは、女として誰かに愛される喜びを諦めることも意味していた。
デオンが踊る場面で、ほんの2秒だがデオンが赤ん坊をあやすような動きをした時にハッとした。デオンは子供が欲しかったのだろうか?もしかして、何かの間違いで子供を産んだことがあり、その子に何かあったのか?
その子が突然に手から離れ、すぐ後に自分の本当の姿がバレたような動きが見て取れた。間違いなく悲劇的な何かがあったのだろう。
女であることが人々にバレると転落が待っていた。禍根を残して亡くなったのでゴーストになってしまった。永遠に彷徨うという呪いを終わらせるには、フローの命を奪うことが必要だった。
自分の終わりを華やかに飾ってくれるクリミアの天使、フロー。デオンは天使に導かれて消えたかった。
悪いヤツを殺して世の中の役に立つとかではなく、みんなから尊敬を集める天使の命を奪いたいというデオン。この感覚の歪み方。デオンの人生がほかの誰かによって歪められたものだったこと、それに翻弄されて惨めな終わり方をしたことがよく分かる。
血に飢えた死神のような目と、その奥から垣間見える悲しみと憤り。力強くピンと張る声に時折混ざる艶やかな裏声。彼女の物語も1つの作品になってしまいそうなほど、重い人生を背負っている。
しかしデオンを消滅させたのはフローの犠牲ではなく、グレイの剣だった。天使を信じて守ろうとしたゴースト。天使の身代わりにデオンの剣を受けたゴースト。
天使ではないが、まあいいか。華やかで劇的で、この男の剣に心臓を貫かれるなら光栄。惨めな最期をやり直すなら、相手に不足はない。
そんなデオンの笑みが切なくて切なくて仕方なかった。いろいろ称賛したいことはあるが、ひたすらかっこよかった。
グレイとフローの不思議な絆
すでに弱っていた体でフローを必死に守ろうとするグレイを、デオンは嘲笑う。
彼女はお前のお望み通りに絶望する気なんかないぞ。お前はまた女に裏切られる。生きている間も死んでからもなお。彼女が裏切らないなどと、どうしてそこまで信じられるのか。
グレイはその時、デオンの問いに答えなかった。決闘を繰り広げながら、グレイの頭の中ではデオンの問いがグルグル回っていたのだろう。
グレイとフローがどのように心を通わせてきたか、思い返したかもしれない。
クリミアでフローを無敵モードに入らせてしまったのは他でもない自分。他の奴に渡したくないから守るはめになった。
野戦病院でクリスマスのパーティーに興じた時、グレイはフローにダンスを申し込んだ。あくまでお道化たふりをして。グレイはゴーストだからフローに決して触れることができない。だから手も繋いでいない。それでも、この時すでに2人には通じ合うものがあったのだ。
フローが「もう少し勝手にします!」と、元気すぎて絶望しそうになくてグレイが怒りだした時にはすでに愛し始めていた。
グレイにとっては、事が大きくなる前にすぐ絶望して殺せると思っていたのに、最後まで頑張れと願う自分が怖くなったのだろう。愛が深くなってしまう前に終わらせたかったのだろう。
でもズルズルと生かしてしまったから、やはりフローを見守りたい気持ちが強まるばかり。あきらめたのだ。
でもフローは何をされても揺るがないのかと思いきや、元カレを他の女に取られたなんて理由で絶望したから終わらせてくれと言う。そんなことで絶望なんかして欲しくなくてケツひっぱたいたら、自分の悲しい人生を洗いざらい共有してしまった。
フローがデオンの剣を受けて生死の境をさまよい、そこから目覚めた時、フローは泣きながら「わたしきっと絶望しますから、約束するから、もう離れないで」とグレイに訴えた。
「わたしきっと絶望しますから」…なんというセリフ。「わたしきっとあなたのお役に立ちますからお側に置いてくださいな」と同じテンションで言うなや(苦笑)。
なんだよぉ。あーあ愛しいなぁ…なんて心の声が聞こえてきそうなくらい、グレイは優しく答えた。「泣くなよ。気が済むまでやればいい。気長に待つさ」と。
絶望するまで待つというより、グレイはフローが信念を全うして満足するまで見守るという決意ができたのだ。
グレイは絶望にまみれて亡くなった。フローは絶望にまみれてグレイの元にやってきた。でも、その2人が愛し合うとき、絶望が力に変わった。
「この愛は、絶望を知らない」
フローがグレイを決して裏切らないと、どうしてそこまで信じられる?
フローが絶望しないことなど、グレイは百も承知なのだ。自分の手にかけたいどころか、フローに生きて信念を貫いてほしいと切実に願うようになったから。
絶望なんてさせない。誰にも彼女の命は渡さない。グレイは覚悟を決めた。
もしジョン・ホールがフローを手にかけようとして、自分が阻止したら自分は霊気を消耗して弱る。フローを救うためにただでさえ霊気が薄くなっているのに、これ以上弱ればデオンの剣をかわすことができない。
デオンに心臓を貫かれると知りながら、グレイはフローを撃とうとしたジョン・ホールに、間一髪で剣を突き立て、魂を麻痺させる。グレイが守ってくれなければフローは確実に撃たれていた。
そしてグレイは最後の力を振り絞り、デオンと相討ちになる。そして最後に誇らしげに叫んだ。「俺は信じたいものを信じた」と。満足した顔で消えていく2人のゴーストと、地の底へ落ちていくような悲痛な叫び声をあげるフロー。
愛した。信じた。だから後悔しない。
作品を象徴する「この愛は、絶望を知らない」という言葉の意味が今ならよく分かる。
最高の恋人グレイ
フローの元カレ、アレックスは改めていい人だった。優しくて包容力があって誠実。性格だけ見れば申し分ない男性かも知れない。
彼は家柄のいい貴族らしい。しかしただの大地主ではなく、専門の学問を仕事に生かしている。クリミア戦争では陸軍の建築家として働き、フローが務めるスクタリ陸軍野戦病院で広がる感染症の原因を突き止めた。
新聞でフローの活躍を知り、フローが使命と心に決めた看護婦の仕事も理解してくれたようだ。危険に身を投じる彼女を本当に心配し、できることなら守りたいと思ってくれた。
ただ、アレックスは1つだけ思い違いをしていた。彼にとってフローを守ることは、閉じ込めることを意味すると気づいていなかった。
彼がフローにプレゼントしたsomething four。「女性が幸せになる4つの贈り物」はどれも高価な宝石やレース。典型的な女性なら大好きで、きっと涙を流して喜ぶであろうキラキラした贅沢品。男性としても、愛する女性に笑顔で身に付けてほしいものだろう。社交界でも恥ずかしくない。
でも、それはフローの心に届くものではなかった。フローは典型的な女性とは違う。そんなものをもらって嬉しがる女性ではないのだ。安全で贅沢な暮らしより大切な夢が彼女にはある。
アレックス、フローが90歳で亡くなるときも妻と一緒に付き添っていて素晴らしいと思った。でも、フローが求めていた男性がどういうものか、一度でも本当に理解したことはあっただろうか。それを考えてしまうと悲しい。
フローをあきらめてエイミーと結婚すると決め、野戦病院から帰国する時の歌が刺さった。「君は一人でも大丈夫」。この台詞、悪い言葉で言えば男が女を捨てるときの常套句だ。
男性としては精いっぱいの罪滅ぼしとして?慰めとして?でも女性としては「でも、守ってくれないんでしょ?他の女のほうが大切になったんでしょ?私はもういいんでしょ?」言い返したい言葉が喉まで出かかっているのを必死で抑えているフローの気持ち、私は痛いほどわかる。
彼女に必要だったものは、夢をかなえられる環境。女性が家庭に収まることを当たり前と考え、妻を家の中に縛り付けようとする男性はいらない。
夢を追う自分を理解するだけではなく、信じて応援し、「やってみろ」と背中を押してくれる人。そして、いざという時は体を張って守ってくれる人が必要なのだ。
それがグレイだった。グレイ自身は、戦争の現場で挫折したフローが「もう嫌です絶望しました死なせて」と言った時、シェークスピアの主人公のようにカッコよく手にかけることが最初の目的だった。応援する気など毛頭なかった。
でも、その役目をほかの誰にも取られたくなかったから、結局はボディガード化した。ただただフローがやることを見守り、信じて励まし、敵からは体を張って守ってくれる。それがズルズルと長引いて愛に変わった。
グレイはフローにとって最高の恋人だった。
最後に
いかがでしたでしょうか?フローがうらやましいと思った人!私のダンナもこういう人で良かったなと思った人!あなたが痺れたのは、グレイのカッコよさ?デオンのカッコよさ?
今後もぜひ一緒に作品を応援していきましょう♪
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