【俳優】石井一孝の魅力に迫る!波乱の40代、突破口の50歳

ミュージカル俳優&シンガーソングライター石井一孝さんの人間像を語るシリーズ第3弾。本記事では40歳ごろから50歳までを追う。

もしかしたら石井さんのこれまでの人生で最も多難な時期だったかもしれない。人生一の難役、東日本大震災、人生最大の苦難。50歳にして発表した念願のオリジナル・ミュージカル。

プロフィールだけでは語られることのない、知られざる壮年期とは。人生の曲がり角ともいえる50歳にして得た教訓とは。新しい夢とは。

栄光の演劇賞、震災の試練、ラジオへの挑戦

菊田一夫演劇賞

30代後半に挑戦した『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授、『蜘蛛女のキス』のモリーナが、40代に突入した2010年に再演され、そこで俳優人生初めての大きな賞を授与される。

演劇人なら誰もが憧れる、菊田一夫演劇賞だ。

折しも大地真央さんがイライザを卒業する公演であった。ヒギンズという情けなくも愛しい男を全力で演じ、イライザを愛し、千秋楽では涙が流れていたとか。

一方モリーナはものすごく素敵なレディだった模様。モリーナは服役中の囚人だが、こわ~い看守役・ひのあらたさんに、「かずさんのモリーナが可愛くてたまらない。これはすごいことですよ」と声をかけられたこともあったそう。

ヒギンズというキャラは現代の私達からすると女性蔑視も甚だしく、大学教授のインテリだけに周りがみんなバカに見えるようだ。でも一生懸命イライザを淑女に育ててくれる。頑張った分は努力をちゃんと認めてくれるところがいい。

名場面とされるのは、ヒギンズがイライザに夜中まで綺麗な発音の稽古をつける「スペイン」の場面。どんな繊細な顔をしていたのだろう。

「Dressing Them Up」を歌う石井モリーナちゃんは正直、激カワイイ。バリトンを封印して女っぽくシナを作り、目がクリクリッとする。対する「She’s A Woman」は痛々しい。

今でもコンサートで歌うとどうしても涙が零れる。歌ううちにみるみる目が赤くなり、歌い終わる頃には頬が濡れている。それくらい苦しい思いを絞り出すようなシーンだったのだろう。

東日本大震災 ~ひとりはみんなのために~

2011年、今も日本人が忘れることができない大震災が発生した時、石井さんは本番中だった。

『ゾロ・ザ・ミュージカル』の名古屋公演。出番の合間に楽屋で控えているときだった。「これは!」と思うくらい大きな揺れを感じ、急いで舞台袖へ様子を見に行った。客席がざわつく中、舞台上では恋人たちの悲劇のシーン。照明器具が天井でユラユラと揺れる恐怖の中だった。

関東圏では多くの舞台公演が中止となる惨事だった。その中で、たまたま西日本公演しか残っていなかった『ゾロ・ザ・ミュージカル』は全公演をやり遂げた。東京の家族、東北の友人。みんなの無事を祈りながら、全力で舞台に立つ日々だった。

そして休む間もなく次の公演が訪れた。これが2011年夏に上演された、ドイツミュージカル『三銃士』。

2011年のあの夏…というとイメージがわく方も多いだろう。福島第一原発が壊れてしまった影響で電力がひっ迫し、非常に暑い夏だった。また日本中が暗いニュースに気持ちが塞がり、懸命な復旧や支援の輪が広がっていた。

『三銃士』も収益の一部を被災地に寄付し、三銃士は終演後に衣裳のまま募金活動を行った。

「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」

三銃士といえば、この言葉。あの夏、これ以上ふさわしい言葉はなかった。今でも3人が合わせた剣の輝きが目に焼き付いている。

石井さんは知的でお色気たっぷりなアラミス役。三銃士の仲間アトスを橋本さとしさん、ポルトスを岸祐二さんが演じ、3人はこの共演をきっかけにマブダチとなる。

「Mon STARS」というユニットを組んで何度かコンサートを開催している。つづりを気にしなければ「モンスター(怪物)」と読めるがそれだけではない。Monはフランス語で「私の(英語でのmy)」という意味なので、つまり「私のスター」という二重の意味がある。

舞台俳優として長くキャリアを積み、コンサートとなればミュージカル曲のパロディ、ハードロック、昭和歌謡やアイドルの曲まで縦横無尽に暴れまくる怪物。

そして暗澹たる2011年、私たちの心に光を照らし続けてくれたスターたち。早く次のコンサートをやってほしいと心から願っている。

ラジオDJ始動!!真夜中の宝箱

40代の半ばは、それはそれは色濃かった。

タンゴに出会い、スペイン語の能力を初めてミュージカルに生かしたり。
『天使にラブ・ソングを』日本初演でエディとなって以来260回以上演じたり。
『Chess』のアナトリーになったり。

しかしミュージカルと音楽活動以外での新しい挑戦をした。ラジオDJの仕事である。

2014年10月大阪のラジオ局FM COCOLOでDJに就任。2021年3月に終了するまでの6年半、週に1時間の冠番組を持った。当初は土曜日21時からの『Saturday Night Treasures』、のちに火曜日24時に引っ越して『Midnight Treasures』。

無類の音楽好きな石井さんがお送りする、真夜中の宝物。ディレクターさんよりずっと音楽に造詣が深いので、選曲から台本作りからすべて自分で。

大好きな洋楽、石井さんのオリジナル曲、ミュージカル曲から、映画音楽、日本のポップス、クラシック、ジャズも、知名度に関わらずなんでもかかった。さらに共演者の方々や芸能界でのご友人を次々とゲストに呼び爆笑トークを展開。

これがものすごく刺激的だった。誰もが知っている有名曲もさることながら、石井さんだからこそのマニアックな曲も随分聞いた。AORやロックが大好きな石井さんと同世代の人々はさぞ懐かしく楽しかっただろう。

世代は違うが洋楽が大好きな私も様々なジャンルを勉強することができた。そう、ある意味勉強だった。それくらい詳しく分かりやすい解説と曲の紹介があり、毎回のように発見があった。

AORとはAdult Oriented Rockの略で、ロックの中でも大人向けのお洒落なコード進行であること。
ハードロックとAORは同じロックでもリズムやメロディの様式美に違いがあること。
プログレとはどんな音楽か。変拍子を使った曲には何があるか。
QUEENやMichael Jacksonなどトップアーティストたちの、メガヒットではない名曲。
衝撃的なクラシックのアレンジ。
世界中の知られざるクリスマス曲。

この番組、もう遠い存在になってしまったが面白すぎて忘れられない。ポッドキャストか何かで復活しないかなあ…なんて思っていたら、石井さんは最近YouTube活動を始めた。こちらでもまた洋楽の知識が学べるかな?希望を送ってみようかな。

ミットレの視聴者だった皆様、もしこのブログをお読みなら是非!

人生最大の苦難を乗り越え、新たなる未来をつかむ50代

50歳を目前にして事件が起こる。

『デスノート THE MUSICAL』死神リューク役として、富山と台湾で公演を行った後だった。大阪公演を体調不良で休演。大きなニュースになった。

具体的になんの体調不良かは公表されなかったが、大阪公演の付近で開催予定だったコンサートも流れてしまった。大阪の後の東京公演からは復帰し、初日のカーテンコールでは共演者たちに抱きつかれ、男泣きに泣いた。

もう二度と体調不良なんかで舞台を台無しにしたくない。しかし今の声も、元気な体も、永遠ではないと気づいた。健康とファンと舞台の有難さを身に沁みて理解した。おごらず油断せず、自分の体も周りの人々も大切にしよう。できる時にできるだけの夢を叶えよう。そう心に決めた。

それは間もなく、次の行動に現れた。オリジナル・ミュージカルの制作である。

2018年11月、一人ミュージカル『君からのBirthday Card』世界初演。3回にわたり再演した。これが笑って泣いて泣いて笑って…魂のこもった感動的な物語だった。この作品の詳細はこちらの記事からどうぞ。

とにもかくにも、多くのミュージカルに関わる人々が夢に描いているオリジナル・ミュージカル。演劇も作曲もできるという唯一無二の能力を存分に生かした、技ありな仕事だ。

この第1作を期に、すでに第2弾の計画も練っているらしい。必ず実現してくれることを切望している。

シリーズ最後の記事では30周年記念コンサートの振り返りを中心に、多種多様な出会いに恵まれた2024年のコンサート、今後の展望を語る。こちらからどうぞ!

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました