「えんとつ町のプペル」ミュージカルVS映画!歌とダンス、登場人物を比較してどっちも楽しむ

2025年8月にKAAT神奈川芸術劇場での再演が決まっているミュージカル版『えんとつ町のプペル』。原作の絵本はもちろん映画版も泣けて泣けて仕方なかったが、ミュージカルも全世代が楽しめる名作。

この記事では、ミュージカル版(初演)と映画版を比較し、どのような違いがあるかを徹底解説。映画版の映像美がない生の舞台ならではの面白さとは。

映画は大好きでもミュージカルは観ていない方、2025年のチケットを買うか迷っている方々にオススメです。この記事でどうぞ予習してください。楽しそうだなと思ったら是非ともご観劇を。まだ間に合います!

オープニングのハロウィーンパーティー

ブルーノの心臓が空から落ち、ゴミを集めてゴミ人間が誕生するちょうどその頃。えんとつ町では子供たちのハロウィーン・パーティーが開かれている。様々な仮装に身を包んで子供たちが歌っているので、ゴミ人間が本物の化け物であることに誰も気づかない。

映画版でこのシーンに使われている楽曲は、ご存じL’Arc〜en〜Cielのhydeさん制作の「HALLOWEEN PARTY」。hydeさんはロックのシンガーソングライターで、この曲も元々はバンドのハロウィーンイベントのために作られたらしい。

『えんとつ町のプペル』映画化のため、原作者にして製作総指揮の西野亮廣さんがhydeさんに声をかけ、編曲と歌詞を変更して使用された。毒々しく神秘的なヘヴィメタで、ダンスの映像と一緒に見ると本当に華やか。迫力満点だ。

対してミュージカル版は、度肝を抜かれるくらい違う。「Halloween in Chimney Town」と題されたアップテンポのジャズ。ビッグバンドがホーンセクション(トランペットやサックスなど)をブイブイ言わせ、非常に賑やか。観ているうちに体がリズムを刻まずにはいられない。

映画版しか見ていない人はこの曲を聞いただけでショックかもしれない。どっちが好きかは人それぞれだが、どちらも全然違うので比べるのが楽しい。hydeさんの曲はおどろおどろしいメイクと衣裳のダンスで圧倒させ、ミュージカルのジャズはノリノリで異世界に引きずり込むといったところか。

ミュージカルらしく台詞を挟みながら進むハロウィーンの夜を、一緒に踊りながら楽しんでほしい。

少しマニアックな視点で言えば、景色の違いも面白い。映画版はカラフルでファンタジーのような映像で、子供たちの仮装もだいぶ凝っている。しかしミュージカル版では、その辺に暮らしている子供たちが、その辺にあるものを使って思い思いに手造りしたお化けという感じだ。庶民的でリアル。

ローラ(ルビッチの母ちゃん)

ルビッチの母ちゃんにしてブルーノの妻、ローラ。

映画版では煙のせいで肺病にかかっており、車椅子に乗っている。しかしミュージカル版では体が丈夫らしい。しっかりと立って歩き、咳もしていない。だからクライマックスの船を飛ばすシーンでも一生懸命に手伝ってくれる。

描かれる場面も少しずつ違っている。映画版ではブルーノとルビッチの思い出を描くシーンでも母ちゃんが登場。ドンと構えた懐の深さを見せる。しかしミュージカルでは回想シーンがカットされており、代わりに両親がルビッチに親子愛を歌いかけるシーンがある。

ここがものすごく心温まる。抽象度は高くなるが歌のおかげでメッセージがちゃんと心に届く。息子は父ちゃんと同じ冒険心と「やってみなきゃ分からない」という信念を受け継ぎ、家に閉じ込めてありきたりの「目立たない」大人にさせることはできないと、母ちゃんは分かっていたようだ。

初演では知念里奈さんの歌声が力強く温かく、頑丈な体を心を持った肝っ玉っぷりが頼もしかった。映画版の船を飛ばすシーンで小池栄子さんが見せた、鋼の芯を持った母ちゃんに雰囲気がそっくり。

異端審問官のボス、ベラール

この男が一番危険。きっと登場して第一声を聞いたら観客の誰もがこう思うだろう。そのくらい、圧倒的な迫力と貫禄。

前回の記事にも書いたが、ベラールは映画版のレター15世と参謀を合わせて1人にしたような登場人物。しかしレター15世のひ弱な感じはゼロ。参謀の暴力的な雰囲気もなく、どちらかと言えば人間離れしている。

スッと現れるだけで恐ろしい。そう、いつなんどき告発されるか分からない恐怖政治の象徴だ。

ローラを自ら尋問する場面がいちばん恐ろしい。こんな人に絶対尋問されたくない、事実でないことも何でもいいからまくしたてて早く解放してほしい、と普通の人は思ってしまうだろう。根性無しは怖すぎて気絶するかもしれない。

異端審問官の総元締めとして手下たちを率い、自らも現場に赴いたり酒場に潜んで耳をそばだてたりする。平和のために星の存在を否定するという揺るぎない主義は狂気じみている節もある。

しかし、子供の頃は星の存在を信じたことがあったのかもしれないと思わせるシーンが最後にやってくる。最後に歌うベラールの声は泣ける。ここをあなたが歌うの!?と思うと涙が込み上げてくるので要注目だ。

さらに、初演のベラールはベルベットのような深く低いバリトンが自慢の岡幸二郎さんだったが、2025年は中村中さん。女性なのだ。これを知った時には「え、男性か中性的な感じにするの?」とも思ったが、こんな滑らかな美声の持ち主をわざわざ男性の声で演じさせるとは思えない。

つまり、ベラールは映画にいないので女性でも男性でもいい。支配者が男性であるという固定観念を壊してくれる登場人物だ。

でも、この恐怖政治の象徴が女性だなんて。いったい何があって上り詰めたのだろう。よほど追い詰められた過去があるとか?また妄想が膨らんでしまうじゃないか。

生の舞台ならでは!ダンスの注目ポイント

ダンスは読み解かなくてもいい。ただ、どこでどんな使われ方をしているかを楽しむだけでいい。

映画は映像の世界なので、台詞の延長上としてのダンスで心情を表現したり、物語の場面を描くためにダンスを使ったりすることはない。しかしミュージカルではダンスの力が「もの言わぬ存在」を目で見て理解させることができる。

このミュージカルで目を見張るダンスが繰り広げられる場面が2か所あるので注目してほしい。というか、目を奪われるはずだ。

まず、なんといっても心臓。冒頭で空から降ってくるブルーノの心臓だ。赤い動脈と青い静脈が通い、おびただしい毛細血管が生えている心臓を表した全身タイツのダンサーによって表現される。

煙の中に突然現れ、ドクン、ドクンと手足で脈打ち、やがて全身で暴れ出す。自在にジャンプし、くるくると回り、風をつかみ、ゴミを集め、ブルーノと一体化していく。

ダンス好きにはたまんない。今どきCGやプロジェクションマッピングで映画を再現することもできるが、こういうところでダンスを使わないとミュージカルの味がしないでしょ。心臓をダンスにしてくれた演出家さん、ありがとうございます。

2つ目はなんと、煙突。これはダンスではないが、ダンサーさんが表現している。この演出はもしかしたら初演だけかも知れないし、2025年にも踏襲されるかも知れないが、どうなるか分からない。初演のYouTube無料動画に載っているのでその目で煙突の可愛さを確かめてみてほしい。

煙突は、舞台に出てくるときはトコトコと歩いてくる。そして定位置についたと思うと、提灯のように縮んで中から掃除屋さんが顔を出す。また潜って顔を隠してしまえば、ブルーノやルビッチと無言の会話をする。煙突が舞台から去っていくとき、ブルーノに向かってお辞儀するのがまた可愛い。

そこにいるのは生きて心を持ったような煙突たち。ダンサーさんが煙突掃除屋さんから煙突そのものに早変わりする演出、また使われているといいなあ。

ミュージカルならでは!歌の注目ポイント

最後に、ミュージカル版で使われている数々の名曲の中から、非常に盛り上がる曲を2曲ご紹介したい。

まずルビッチの仕事場。煙突掃除屋さんたちだ。スーさんのソロを中心として笑顔で歌い踊るので、もし映画版を観ていなかったら、後からスーさんが異端審問官のスパイだったと知る時は大ショックを受けることになる。

ここの曲はミュージカルが始まる前、スコップによる前説の間もずっと流れている。出だしから繰り返し使われるフレーズがあるが、ここがとても簡単で覚えやすく明るい。この作品の「お持ち帰りソング」といっていい。帰り道に口ずさめるほど簡単で耳に残る、そんなインパクトがある。

煙突掃除屋さんたちが掃除器具を打ち鳴らし、バンド演奏の皆様も舞台のすぐ前の通路に登場して一緒に楽器を打ち鳴らす。陽気でとにかく楽しい。子供もきっと一番好きな場面だろうし、ホッコリできる。

そして、船を飛ばして星を見に行くシーン。クライマックスにふさわしい壮大な曲を、ベラール以外の全員で歌う。

映画版では大勢の異端審問官たちと町の人々が大合戦をするが、ミュージカル版の初演では異端審問官が3人しか出てこない。そして3人全員、ルビッチに寝返る。ちょっとかわいそうだがこの人数がいることで場面の迫力がすごい。

船を飛ばすため、凧を上げるようにロープを全員で力いっぱい引っ張りながら歌うのが、涙腺崩壊するところであり作品の目玉。歌に参加する人数が増えるにしたがい転調され、声が高らかになっていく。全員の心が揃った時の大合唱は、手に汗握る興奮を覚えるはずだ。

最後に

大画面で映像美を楽しむ映画はもちろん素晴らしいが、劇場という非日常の空間で、歌とダンスに彩られながら生身の人間が演じる「えんとつ町」の世界も、きっと圧倒される。

初演はプレミアのようなものなので、2025年は演出がいろいろ変更され、その時にしか見ることのできない世界が広がっているはずだ。いわば初演はもう動画の中でしか見ることができない。

今後きっと何度も何度も世界中で受け継がれていくであろう名作ミュージカルだからこその、その時々にしかできない、たった一度だけの演出。どうかお見逃しなきように。

ミュージカル版『えんとつ町のプペル』キャストの皆様の感想はこちらをどうぞ。

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