「千と千尋の神隠し」舞台版2024年ロンドン公演の評判は?ガーディアン紙とYouTubeを見てみた!

2024年にロンドン進出した舞台版『千と千尋の神隠し』。日本人によって日本語で上演されるジブリ作品が、現地の人々にはどのように評価されているでしょうか?

この記事ではガーディアン紙(Web版)で見つけた嬉しい紹介記事と、YouTubeで紹介されていたロンドンっ子の感想をご紹介。どちらも英語で掲載されているため日本語で抜粋しながら解説していきます。どうぞ最後までお楽しみください!

ガーディアン紙Kate Wyverによる作品紹介を抜粋

演出家ジョン・ケアードが宮崎駿にアイデアを売り込んだ

『千と千尋の神隠し』舞台版を統括したのはイギリスの演出家、ジョン・ケアード

日本の舞台演劇界でも『レ・ミゼラブル』『ジェーン・エア』『ナイツ・テイルー騎士物語ー』でお馴染み、かつ奥様は日本人ファンティーヌの今井麻緒子さん。

今井さんが共同制作者としてジョンを補佐し、「彼女がいなければこの作品は成立していなかった。彼女が僕の言いたいことを補完してくれる」とジョンは語る。

事の発端は今井さんがジョンとお子様たちにご紹介したことでジブリ作品を鑑賞し、『千と千尋の神隠し』に出会い、魅了されたことだった。

私も含めて多くの人が思ったことだろう。「ジブリ作品をなんでイギリスの演出家が?」そこには日本人の奥様の影響があったのだ。
日本側からの提案ではなくジョン自身が作品のファンで、やりたいと思ってくれたなんて嬉しい限り。そして日本での信頼が厚いジョンだからこそ帝国劇場での上演も叶ったし、ロンドンへ持っていくことも可能だった。

宮崎監督はジョンの提案にイエスを出したが、「でも一体どうやるの?」といたずらっぽく聞いたとのこと。

ジョンやプロデューサーたちは、「できる限りシンプルに」と、スケッチブックに描いた装置を見せ、とりわけ巨大な湯屋をどうやって舞台上に作るかを熱心に説明した。

日本人の大切な文化である温泉。でもイギリスに同じ文化はない。そして日本で親しまれている温泉に、現実世界には存在しない神々が入りにやってくる。

その世界観を表現するため、日本伝統の能舞台の構造と舞台装置の特性をガッチャンコさせた。真ん中に木造の建物を作り、それが盆で回って常に形態を変化させていくのだ。湯屋が回ったり開いたりくっついたり、舞台上で変形することによって場面が流れる。

そういった巨大な装置が巧みに使われることで、広いけれど一つの空間しかない舞台上で物語を展開させることが可能となる。「20分に1回はひとつの物語のフィナーレが来るような」感覚になるくらい、めくるめく舞台空間だ。

この作品では演出家、プロデューサー、パペット職人、舞台装置すべてジョンのチームが担っている。
作品オリジナルの世界観、湯屋と作品全体の空気感が醸し出す日本らしさ、そしてジョンが作りたい舞台空間のすべてを調和させ、宮崎駿監督に恥じないものにする。
どれだけ大変だっただろう…というより、どれだけ想像力を総動員させたのだろう。ものすごく楽しそうだと思えてしまう。

夏木マリが語った湯婆婆との出会いとロンドン公演の意義

もとはと言えば、『千と千尋の神隠し』が初めて日本で上映されたのは2001年。イギリスでの上映は2003年だった。映画版で湯婆婆の声を、そして20年越しに舞台上で実際に湯婆婆に扮した夏木マリさんがガーディアン紙に思いを語っている。

夏木さんは、映画版のときはこの作品がまさかこんな素晴らしい遺産になるとは思いもしなかった。

夏木さんとジブリの関係の始まりはなんと、目の前に座った宮崎監督が夏木さんの顔をじーっと凝視し、サラサラと湯婆婆をスケッチしていったことだった。

夏木さんにとって湯婆婆の第一印象は冷酷。しかし、どうもスタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫さんのような存在だということが明らかになっていった。ただただ一生懸命働いているだけで、悪者ではないことが分かった。

そう。ジブリ作品において最も大切な要素は、悪役がいないこと。ジョン・ケアードは「救いようのない人が1人もいない」という。

湯婆婆は確かに形相もやることも怒っても恐ろしいが、悪い人ではない。
確かにおっしゃる通り。坊といるときの豹変っぷりなんて視聴者は目が点になるし、千尋が腐れ神をしっかりとおもてなしできれば労ってくれる。
強いリーダーシップが取れている湯屋の堂々たる「主」で、「女将」という言葉は似合わない。
そのあたり、恐ろしさよりも頼りがいと愛すべきところを見てしまうのだ。
その迫力がアニメでも生の舞台でもちっとも変っていないのが流石としか言いようがない。

夏木さんは湯婆婆のあのデカくてインパクトたっぷりな顔を再現するため、付け鼻と深いシワを描いている。「美しくなくていいのよ。強く印象に残るものがいい」と語る。

帝国劇場もロンドン・コロシアムも大きな劇場なので重責はあるが、喜びを感じながら舞台に立っているとのこと。

夏木さんだけではないだろうが、この大ベテランがロンドンで湯婆婆を演じているなんて、考えてみたらとても不思議な気がしてくる。シェークスピアを英語で日本人が、とかではなく、湯婆婆だぞ。

日本はウェストエンド作品を数多く輸入しているのに…

その逆はなかった。とても残念なことだ、とジョンは言う。

『千と千尋の神隠し』の舞台化とロンドン公演はそこへの挑戦だった。しかし、せっかくの挑戦が始まったかと思いきや、世界はコロナに苦しめられた。

移動が制限されている中「悪夢のようだった」けれど、日英の制作陣は渡航が再び許されるまで、リモートですべてのやり取りをした。

イギリス国内のスタッフだけで取り仕切ることは、ジョンが司令塔なら可能だったはず。しかしそれはしなかった。作品が日本のもので、表現している文化も非常に日本的な要素が強いから、日本人が意思決定の場にいなければ絶対にダメだった。

パペットだって文楽の人形の作られ方が元になっており、ジョンが宮崎監督に熱心に聞かせた構想は、すべて人の手で作る神々の世界だった。ワイヤーやら操り人形の足やら、湯屋のセット転換やら。

魔法ではないもので作る魔法を、すべてをお客さんから見えるように演じるのが要だった。そして舞台の上に出てくる時間がほんの短いキャラクターや道具でさえも、印象にグッと残るようにしたかった。

コロナという危機をじっと耐え偲び、ここまで来た日英の制作陣にひたすら頭が上がらない。
制作陣が日本の作品をロンドン上演にこぎつけるというかつてない挑戦に、これほど誠実に尊敬をもって向き合ってくれたからこそ、こんなに大勢の人々の感動を呼ぶことができた。この記事を読んだ今だから確信している。世界中の演劇ファンが憧れるロンドン・コロシアム、1904年創設の由緒ある劇場。2359席。コヴェント・ガーデンの目と鼻の先。ここで4か月。しかも日本語で、日本人キャストが、日本の代表作を演じている。

こうやってまとめてみると改めてすごい快挙だと分かる。

観劇マニアも映画ファンも感涙!Youtube掲載の感想をご紹介

Sam4G0dさんのレポート

Youtubeには観劇したお客さんの様々な感想が載っているが、その中の1つ、Sam4G0dさんの動画が嬉しかったのでご紹介したい。

演劇ファンの若い女性だが、観劇前、幕間の休み時間、終演直後、そして観劇3日後にちょこっとずつカメラを回し、まるで感情が流れる実況中継のようにレポートしてくれている。

英語でイギリス人キャストによって上演されている『となりのトトロ(My Neighbor Totoro)』も観たことがあり、『千と千尋の神隠し』も日本語で映画版を見たらしい。

まず第1幕が終わり、幕間に入った直後の感想。涙ぐみながら「1幕だけで2回泣いた。感嘆してWowと呟いたのが1回」と言っていた。

終演直後は「壮観で、感動的で、美しくて、驚愕できる。素晴らしいものを描写する言葉で辞書に載っているものはすべて当てはまる(spectacular, emotional, beautiful, phenomenal; every word in the dictionary that describes something amazing)」。

そして「すぐにでも、明日にでもまた見たい」と興奮気味に話していた。

そして観劇3日後にはゲットしたグッズ紹介も。温泉に入りに来るヒヨコの神様のぬいぐるみ、様々なデザインのTシャツ、マグカップもいいが、イチ押しはカオナシ関連のグッズ。カオナシのぬいぐるみ、ロンドンコロシアムの文字と一緒のピンバッチが可愛い。公演プログラムはもちろん購入すべし。

日本語を解さない彼女だが、原作のアニメを見ていない人にも十分理解できるという。

日本語で上演されているので、もちろん言っていることは分からない。だが、しっかり英語の字幕が左右と舞台上方の3か所から見ることができる。

意味を取ること以上に、この物語の中だから日本語の響きと空気感がいいと語っていた。

3日経ってもまだ毎日のように作品の音楽を聴き、また観たくてたまらなくてチケット情報を毎日見ていると…語ったこの動画が出たのは2か月前。千秋楽まであと1か月半だが、さて、彼女はもう一度観劇できるのかな?

最後に

ちょこちょことショートムービーを見ていても次々と驚きが出てくる。

『千と千尋の神隠し』アニメ映画版がイギリスに上陸したのは20年前。そう、イギリスには子供のころに映画を見た大人たちがいて、その人たちが舞台を観に来てくれている。私などより余程内容を熱く語れるマニアもいる。その人たちが舞台版を絶賛している。ありがたい。

日本が誇る作品をロンドンで上演するのは遅すぎたくらいかもしれないが、やっとここまで来た。これを皮切りに、日本の作品がこれからも数多くロンドンに羽ばたいてほしい。切に願っている。

次回はロンドンで『千と千尋の神隠し』を上演するキャストさんの中からオモシロエピソードやロンドンでの生活ぶりをお届けしたいなと思っています。乞うご期待!

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