「ウィキッド」ミュージカルVS原作小説!エルファバとフィエロの関係が遂に明らかに

私の人生で2番目に好きなミュージカルとして君臨する『ウィキッド』前回の記事では、原作の上巻に書かれたエルファバの学生時代を取り上げました。この記事は原作小説に描かれたエルファバの人生をお送りするシリーズ第2弾。

ついにフィエロを語ります。オズの陛下に反旗を翻した後、けれど『オズの魔法使い』につながるずっと前、エルファバの人生において決定的な存在となるのが恋人フィエロ。

是非最後までお楽しみください!

エルファバとフィエロの蜜月

前回の記事の復習をすると、エルファバとグリンダはディラモンド先生の遺志を継ぎ、人格を持つ動物たちの権利回復のためオズの魔法使い陛下に直談判しに行った。しかしエルファバはグリンダだけをシズ大学に返し、二度と戻らなかった。

ここがいわば、ミュージカルで言う第1幕最後のシーン。原作小説でも上巻の5分の4あたり。明らかにエルファバは何かを決意し、グリンダはエルファバが危険な道に走っていったことを悟った。

学友たちがみんなシズ大学を卒業して3年後。そんなエルファバと最初に再会したのはなんと、フィエロだった。

ミュージカルでフィエロはエルファバの最愛の人。最後は一緒にオズの国から消える、生涯の恋人だ。私はなぜ彼がエルファバの緑の肌に怯まなかったのか、なぜ他の人と違う視点で物事を見ることができたか疑問だった。その疑問が小説で解けることを期待していた。

正直いくつか思い当たることはあるが、やはりよく分からなかった。なぜなら2人は再会した途端、恋人関係になってしまうからだ。

読者は「案の定」と思えるが、エルファバは魔法使い陛下に謁見した後、反政府組織に所属した。メンバーが互いに本名さえ名乗らないような、革命のための秘密組織である。

エルファバと偶然再会したフィエロは、せっかく久し振りに再会できたのに知らない人のふりをするエルファバを不審に思い、後をつけて行った。エルファバも訓練を受けているが、フィエロも遊牧民族で狩りをするので、隠れ家まであっという間だった。

エルファバの隠れ家はエメラルド・シティの貧民地区にある穀物倉庫の空き部屋だった。蜘蛛の巣が張り、悪臭が漂い、埃っぽい。しかしそこでフィエロは、エルファバが革命のため様々な任務に就いていることを知った。

最初に再会した日の別れ際、エルファバの眼に隠しきれない感情が浮かんでいるのをフィエロは見て取り、一気に心を持っていかれてしまった。

私は正直「えええーーーっ!」と思った。おそらく多くの読者がそう思うだろう。もう、フィエロはエルファバの眼を見て「グッと来た」としか表現しようがないのでは。

実はフィエロの生まれ育った地域では、私達の世界における前近代と同じように、幼くして結婚する習慣があった。恋愛して結婚するのではなく、家同士をくっつける政略結婚が普通だったと考えればいい。そのため、フィエロは7歳で結婚した妻がいた。

20歳で本当の夫婦となり、この時は3人の子供もいたが、愛情は薄かったようだ。妻子は大切に「しなければならない」が、エルファバは特別な存在だった。そこから数か月間、エルファバの隠れ家で2人は共に時間を過ごした。

フィエロはなぜエルファバを美しいと思えたか

小説には2人が愛をはぐくんだ時間のことが生々しく描かれている。その中で、フィエロが月に照らされて眠るエルファバをただウットリと見つめているだけのシーンがある。

肌の質感、腰の細さ、月に反射した緑色。どれをとっても美しかったようだ。

これ、普通だよね?いわゆる緑色ではない人間の肌色をした私達の、普通の恋人同士の感情だよね?男性にとって愛する女性は、見た目がモデルさん並みに完璧でなくても美しいと思えるものだとデヴィ夫人が著書で述べている。

となると、緑という色なんてもう関係ないということか。愛しているという感情が先に来るらしい。

エルファバは確かに生まれた時から緑色の肌で散々な目に遭ってきた。しかし、緑色は特別珍しいだけで、オズの国は多民族国家。様々な肌の色や習慣、言葉、気候、宗教まで地方によって違う。そう、小説の著者が住むアメリカと同じだ。

フィエロも差別を受ける側だった。出身地はヴィンカスという山岳地帯で、ほかの地域から「ウィンキー」と差別語で呼ばれていた。肌は浅黒く、顔から首、手にも、青いダイヤモンド模様の入れ墨がある。

エルファバはこの入れ墨の模様も好きだったが、フィエロがシズ大学に入学したての頃はみんなに好奇の目で見られた。

フィエロはヴィンカスの王だった。王と言っても領主程度の存在で、終始SPに守られてもいないし、大学でも仕事でも悪友たちとつるみ、エルファバの隠れ家にだって一人で来る。しかし物腰はさすがに柔らかで、優しく知的。理想的な紳士である。

エルファバがフィエロにメロメロになった理由は想像がつく。単純に紳士的な言葉や物腰がカッコ良かったのだろう。そうとしか思えないほど、恋人同士になる前に心を通わせるようなエピソードが全然ない。

エルファバもフィエロも、それぞれ外見にはコンプレックスがあるが中身で勝負してきたと言っていい。エルファバには確固たる信念が。フィエロには紳士の気品が。

そしてフィエロはエルファバと時間を過ごすうちに、人格のある動物たちが迫害されている社会情勢を深刻に捉えるようになっていく。故郷やシズ大学では大して気にかけていなかったが、エメラルド・シティにいると残酷な犯罪現場を目撃してしまうこともあった。

信念のため怒りに駆られ、危険を顧みず行動し、間違った社会を変えようと活動するエルファバが、大して信念を持ったことのないフィエロには美しく見えたのかもしれない。心配で、安全でいてほしくて、無事な姿で自分と一緒にいてほしくて、でも行動するエルファバが眩しくて。

似て非なる者同士、愛しくてたまらなくなってしまったのかも知れない。

ミュージカルと全く違うフィエロの運命

ミュージカルではハッピーエンドになるエルファバとフィエロ。しかし、小説ではそうはいかなかった。ものすごくショッキングな結末が2人を待っている。読者はそれぞれの結末を別々に読むから、二重に打ちのめされる。

やはりエルファバは革命のため危険な任務に就いているので、いつどこから狙われてもおかしくない。そして、私達のクリスマスのような、オズの国の伝統的な祭日を控えたある日。エルファバはフィエロにエメラルド・シティの外へ避難しろと言う。

フィエロはこっそりと、再びエルファバの後をつける。エルファバはなんとマダム・モリブル殺害計画に関わろうとしていた。マダム・モリブルはオズの魔法使いの忠実な参謀。エルファバは街の劇場に現れたマダムを狙ったが、結局は群衆に遮られて失敗に終わった。

一部始終を近くの建物から見ていたフィエロ。ガクガクしながらエルファバの隠れ家に戻って間もなくだった。オズの魔法使いが放っていた秘密警察が、フィエロの頭めがけ棍棒を振り下ろす。

「嘘でしょ!!!」とページをめくる手が震えた。

そこから場面が変わり、街の女子修道院。憔悴しきったエルファバが現れる。怪我をしており、震えてろくに話すこともできない。とにもかくにもエルファバは修道院に匿われる。

小説はここで上巻が終わる。エルファバはそこで7年という長い年月を過ごすことになる。最初の1年か2年は正気に戻れなかったらしい。そこから修行をし、ずっと病人の世話をしていた。

腰が抜けるような事実だが、記憶にも残っていない最初の1年で、エルファバはフィエロとの子を生んだ。

リアという男の子で、捨て子とされていたが出自については誰も言わない。いつも隣にくっつき、エルファバが修道院を出るときにもなぜか一緒に来た。

エルファバとフィエロの子ではないかと疑う登場人物もいたが、緑色の鱗片が少しもない。私自身も違うと思った。しかし、『ウィキッド』が人気すぎてシリーズ化されている中で、なんとエルファバの息子を主人公にした続編があると知った。またしても「えええーーー!!」と叫んだ。

そしてつい今しがた、フィエロの城へ初めて入るシーンを読み返し、リアが「父の城に入る」という1文を見つけた。目立たないページの端っこに。でも章が分かれるいちばん最後のところに。

…スルーしてたなんて。

どさくさに紛れて重大な秘密を書くんじゃないよマグワイアさん!!!私はのけぞるくらい驚いたが、皆様も?

フィエロの運命がエルファバの運命も左右した

話をエルファバに戻すと、彼女は修道院を出てからまっすぐ、フィエロの地元ヴィンカスに向かった。妻と子供たちにフィエロのことを謝り、許しを請おうとしたのだ。

ここから下巻の大半は、ヴィンカスでフィエロの家族と奇妙な同居生活をしたことが長々と書かれる。しかし一言で表せば、エルファバが何度もフィエロの妻と2人で話すチャンスをうかがっては、妻に拒否され、そのまま許しを得られずに終わってしまった。

フィエロの妻は夫をそれなりに愛していたから、なぜどのように亡くなったかなど絶対に聞きたくなかったのだ。ズルズル過ごすうち、城の周辺にはオズの魔法使いの軍が駐屯するようになり、フィエロの妻や子供たち、一緒に暮らしていた妻の妹たちも、やがて連れ去られてしまう。

偶然にも難を逃れ、残ったエルファバ。ここからは、いよいよドロシーとの対面まで秒読みになる。

ドロシーと行動を共にしていたカカシ。ミュージカルではあれがフィエロだった。処刑される直前にエルファバが魔法をかけてカカシに変身させ、命拾いした。そして迎えに来てくれた。

小説でもここまで引っ張るのかと期待していたが、カカシは残念ながら、フィエロではなかった。そうだったらいいなとエルファバも願っていたが、違うと分かった時の愕然とした彼女には涙が出そうだった。

物語の半分で惨い最期を迎えたフィエロが、その後のエルファバの行動と運命を決めた。エルファバにとってフィエロの存在はそれほどまでに重かった。

おまけ情報

ちなみに、ミュージカルでのフィエロはイケメンで社交的でどちらかといえば悪ガキ。最初はグリンダとつき合い、その後はエルファバとグリンダがフィエロの取り合いをした結果、エルファバが勝利する。

小説では、エルファバとグリンダが恋敵だったとは一言も書かれていない。なぜなら、グリンダはシズ大学を卒業して間もなく、ほかの男性と結婚してしまうからだ。平凡で少し退屈だけれど裕福な結婚生活を送り、チャリティにも力を入れていた。

フィエロとグリンダは一度だけエメラルド・シティで偶然再会するが、二人ともすでに結婚しておりフィエロはエルファバを愛していた。グリンダにはフィエロが好きだったような感情も垣間見えるが、まったく重要なこととして描かれていない。

ミュージカルでエルファバとグリンダをダブルヒロインにした際、ここを膨らませて恋敵の設定を作ったのだろうと考えられる。

 

次回は原作小説でエルファバの人生を追うシリーズ最終回となります。『オズの魔法使い』の裏でエルファバに何が起こっていたのか。小説の作者が伝えたかった主題とは?こちらから是非どうぞ!

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