「えんとつ町のプペル」ミュージカル界のチケット高騰問題に斬り込むキングコング西野亮廣さんが痛快すぎる

世界で愛される『えんとつ町のプペル』。キングコングの西野亮廣さんが書かれた絵本が原作、映画化もされ、2021年にミュージカル化され、YouTubeでは初演の模様が無料で視聴できる。2025年8月にKAAT神奈川芸術劇場で再演され、チケットがすでに売り出されている。

再演に伴い、西野さんがYouTubeのチャンネル「BackStory」に制作のドキュメンタリーを載せているが、面白すぎて1人でも多くのミュージカルファンに広めたいと考え、この記事を書くに至った。

この記事では、初演の無料動画をビジネスの視点から考察したうえで、西野さんのミュージカル界での奮闘ぶりと特に心打たれたことをご紹介する。

私と同じように、今の演劇界の問題に怒りと疑問を抱いている方は多いはず。そんな方々にとって西野さんの話は的確すぎて気持ちいい。是非最後までお楽しみください。

『えんとつ町のプペル』配信を観る前の印象と観た後の考えの変化

私はミュージカル初演の配信をYouTubeで見つけたときの衝撃を忘れない。

「嘘でしょ!?ミュージカル1本まるまる無料で公開!?チケット代をもらう人たちも払った客もバカにしてる?」

・・・・・・。

いやいやいや待て。これは、私がいつも望んでいたことだ

本当は100回観たい作品もチケット代が高いので1回か2回しか観られない。
いつでもどこでも何度でも大好きな作品が見られるようになったらいいのにな。
そんな「どこでもドア」的な奇跡の道具があればいいのにな。

…と願っていたのは事実。でも、それじゃ泥棒だとも思っていた。

大企業のスポンサーや海外の著作権がないと、その奇跡は可能なのだ。感動!!!

考えてみれば、YouTubeなら再生回数が増えれば増えるだけ収入になる。チケット代を取って劇場に見に来させなくても、ちゃんと収入になりさえすれば1人でも多くの人に届けることは大切だ。

劇場に来られない多くの人がいる。
チケット代を払えない多くの人がいる。

ここで見てもらえばいいのだ。その視聴回数がお金になるのだからビジネスとして成り立っている。現に私は20回は確実に視聴しているのだから。もうほとんど歌詞や台詞を覚えているくらいに。

チケット代を払った人は劇場で臨場感や生の俳優さんの息吹を感じるというミュージカルの醍醐味を味わえる。配信だけを観る人は、生の醍醐味はないがとにかくお財布と移動距離の点で助かる。

無料では物足りなくなった人たちが再演では劇場に足を運んでくれるかもしれない。

そうかぁ。これ、正解だよね。YouTubeでの全編公開って、だれも損しない。それどころかマーケティング戦略の一つなのだ。

私が今まで観てきたミュージカルはほとんど大企業が運営していたり海外作品の翻訳版だったりするので、どうしても版権やら権威主義やらが邪魔をする。無料で全編公開なんて聞いたことも考えたこともない。

西野さんが演劇界のビジネスに叩きつける挑戦状、ものすごく面白い。そして有難い。

ちょちょっと西野さんを調べれば、この方はビジネスの達人としても名前が通っているらしい。お笑い芸人からビジネスへ、エンターテインメントの研究へ、そうしてミュージカル界に飛び込んできた風雲児だ。

演劇業界から受けた嫌がらせや集客の問題に言及した動画を見て【感想】

YouTubeの「BackStory」と銘打たれたシリーズは、2025年のミュージカル再演に向けた舞台裏。そこにはエンターテインメントというビジネスで戦う西野さんとプロフェッショナルたちの世界が広がっている。

西野さんはビジネスの達人として演劇界をメッタ斬りにしているのが非常に痛快。その中で、「演劇業界の嫌がらせ」と題された動画があまりにも衝撃的だった。

高価なVIP席を必ず確保し、それ以外の席の値段を下げる

ミュージカル版『えんとつ町のプペル』は子供が3人以上の家庭とシングル家庭の子供が無料。2025年に無料招待される子供の数は3200人。

なんだとぉ!

2025年『えんとつ町のプペル』は、SS席(プチVIP席のようなの)13,000円、S席11,000円、A席~最安値まで8,000~4,000円、子供は席によって8,000~3,500円。

ミュージカルのチケットはこれが普通であるべき。

対して、今どき帝国劇場やシアターオーブのS席は土日で17,500円、平日で15,500円。赤坂の『ハリポタ』は最高値で22,000円、最安値でさえ11,000円。帝劇クロージングの『レミゼ』は最終週で最高値19,500円。

ふざけるな。ファンとしてこの一言に尽きる。

西野さんはこの現状に真っ向勝負しているのだ。石井一孝さんが「39ミュージカル・ライブ」で3900円のコンサートに挑戦したように。値下げはやろうと思って工夫すればできるのだ。

作戦は、高価なVIP席を作り、そこでガシッと富裕層をつかむこと。そして一般席の値段を下げること。

なるほど、その手があるんだ。イギリスで王族が観劇するようなほんの一部のVIP席を作り、3万円でも5万円でも払える人に売る。その富裕層にファンが足りなさそうなら、そこにファン層を広めるマーケティングが最重要。そうすれば一般席を今までと同じ値段で売っても大丈夫なはず。

ちなみに『プペル』のVIP席は5万円也。わ、すごい(笑)。日頃から旅行三昧オペラ三昧の富裕層なら払えるよね。マーケティングもできているみたい。同じことをなぜ天下の帝劇でやらないんだ。できないわけないだろ。

昨今のチケット代高騰は業界の怠慢

こういう、従来の型を破る手法で制作を進めていると「西野はなんとなく怪しい、悪い人らしい」と悪評が立ったとのこと。事務所の圧力でオーディションをやめさせられた俳優さんが悔しそうにしていたとのこと

なんとなくってさぁ、裏取ったの?「なんとなく」で人の能力を判断するような組織ならビジネスとして失格だと思うが。

この戦略を見ても尚そんなことをほざく奴がいたら余程の石頭。チケット代高騰に苦しむ人がこんなに大勢いる中で、長年のファンをつなぎとめようとしない人々だ。

私は3歳から観劇が大好きで、平均的な収入の我が家でも気軽に劇場へ行けた。社会人になり一人暮らしをしても、劇場は少し節約を工夫すれば罪悪感なく足を運べる場所だった。

今は配信のような安いチケットがない限り滅多にミュージカルなんて観られない。命の洗濯と言えるくらい最大の楽しみがミュージカルなのに、チケットを買う勇気が出ない。

好きな俳優がいればチケット代がちょっとくらい高くても払うでしょ?と制作側が思うなら、努力してお金を稼いで劇場に来るファンの思いを踏みにじっている。最近の値上げはちょっとどころの騒ぎじゃない。チケット代に交通費がくっつくなら尚更だ。

さらに西野さんは、昨今のミュージカル界ではチケットが売れないので、制作側や俳優さんが身内で宣伝して観に来てもらっている現状を暴露していた。

ファンはソーシャルメディアで制作会社と俳優さんをいくつかフォローしていれば情報が来るし、好きな俳優さんはファンクラブに入っていれば情報を入手できる。でもそれ以外への宣伝もまだまだとのこと。

生活の動線にミュージカルがない。学校で演劇の授業もしたことがない。だから、どこで何を上演するのかの情報をファン以外の人が受け取るすべがないとおっしゃっていた。

確かにその通り。そこにチケット代高騰が追い打ちをかければ、せっかく情報を入手しても「はっ、あほくさ」となる。

現に私もチケットを求めて「ぴあ」やら「e+」やらを眺めると悲しい現実に気づいてしまう。値上げ前は一番いいS席から埋まっていっていたのに今は一番安い席から埋まっていくのだ

そりゃそうだろうよ!なんで解決しようとしないの?チケット代の高騰問題が起こってからもう2年以上でしょ?何やってたの?

ミュージカル大好き庶民の私が抱いていた怒りを西野さんが見事に言い表し、解決策まで提示してくれた。大感謝。

上演時間と料金が比例関係にあるとは本当か

少しオマケの話を。西野さんは上演時間の長さと料金の高さが比例関係にあると指摘した。今の現役世代はタイパという言葉も創出するくらい、時間の生み出し方が大切。高いうえになんでそんな時間取られなきゃいけないの?と考える若い世代が多いから、これもファン離れの一因になっていると。

ここは、1ファンとしての個人の意見でしかないが、ちょっとだけ違う。

ミュージカルは2幕構成で合計2時間半~3時間くらいやってほしいと逆に思う。高いチケット代を払って「え、みじか!」だと逆に損した気分。

でもそれ以上だと流石に長いので『ハリポタ』の3時間40分ってのは勘弁してほしいが、まあバレエやオペラなんて3幕まであるし歌舞伎は4幕。一日がかり。

それはまあ、特別な体験として1日の日帰り旅行にでも行った気になれる。ファンとしても娯楽としても許容範囲。ただ、やっぱりミュージカルを全く知らなかった人が最初から長~い作品を観るのは抵抗があるかも知れない。新しいファンを獲得したいなら、短い作品はあったほうがいい。

個人的な意見としては、大作から短いのまでいろいろあるのがいいかなと思う。でも『プペル』に関しては、ファミリーミュージカルと銘打っているから子供が我慢できる時間であるのが正解だ。

ミュージカル『えんとつ町のプペル』では全キャストに稽古代を払っている!!

『えんとつ町のプペル』では全キャストに稽古期間もお給料を出した。

これには一番ビックリした。稽古期間は時間が拘束されているにもかかわらず給料が出ず、1ステージいくらという給与体系は長いこと問題とされてきたのに、誰も取り組まなかった。

取り組んでくれた人がここにいた。これは俳優さんの労働問題を憂うファンとして涙が出るほどありがたい。

どうやって財源を確保するのか聞いてみたいが、やっぱり版権とか大企業のトップたちの贅沢とか余計な宣伝費とか、国会議員の給料なみにいろんな無駄を省けば可能なのではないか。

この作品は海外の翻訳作品ではないオリジナルなので、ゼロから作るぶん稽古期間は長く確保しなければならない。試行錯誤して夜遅くまで稽古場に残る人も多いだろう。

その時間が全部タダ働きだったら?考えただけでゾッとする。こんなおかしいことをよく今まで通してきたな。西野さんはこの悪習を「やりがい搾取」と呼んだ。的確すぎる。

『プペル』の現場では人が働く時間を尊重してくれるようだ。これも、今後の演劇界でスタンダードにならなければいけない。

西野さんには是非ほかのミュージカル作品もどんどん生み出していただきたい。同じようにチケット代の設定や給与体系を作れば、俳優さんはもう他の制作会社で働けなくなりそうだ。待遇が悪すぎて。

そうすれば他の会社も同じシステムを構築せざるを得なくなるのではないか。システムが作れなかった会社が俳優からもファンからも見放され、潰れていく。そうなったらいいな。

最後に

演劇界に風穴を開けようと戦う西野さんに敬意を表して。

私は『えんとつ町のプペル』の大ファンだ。絵本をまず読み、ミュージカル版をYouTubeで見つけて動画を視聴し、その後で映画を見た。どれにも良さがあり、どれも涙なしで観られない。

ミュージカル版のYouTube動画は中毒になり、見つけた当時は毎日1回ずつ見続けた。さすがに飽きるまで何十回見たことか。映画版のような完成度とまでは行かないが、ミュージカルならではの迫力ある歌とダンス、舞台セットや衣裳での遊び心が効いていて大感激。

今年もせっかくのハロウィンなので久し振りに初演の動画を楽しんだ。もはや定番よね、と。何度見ても、ええもんはええ。

2025年『えんとつ町のプペル』はキャストも発表せずに初日の3日間を売り切ったとのこと。

それを可能にしたのはひとえに作品の力だという。ブロードウェイに新作を売る時も同じで、投資家のイエスを得るためには作品に力がなければ無理。物語やメッセージが心に刺さるのはもちろん大切だが、人材も人気順ではなく才能順で選びたいと。

ミュージカル界の人気商売にもグサッとナイフを突き刺している西野さん。芸術家として、ビジネスを行う身として、仕事時間がハンパなく長いのだという。誰にも負けない努力家だから誰にも打ち負かすことができないのだと。

恐れ入りましたとしか言いようがない。こうやって異端児がミュージカル界に現れたことは、政治界に石丸伸二さんが、学問の世界に成田悠輔さんが現れたのと同じくらい素晴らしいこと。

ミュージカル界の様々なアンシャンレジームを壊すため、この機を逃してはならない。私達ファンも動向を見守り、声を上げていくべきだ。今まで問題は見えても、考えたり悩んだりするだけでどうしようもなかった。今回ばかりは次に向けて何かできるような気がしないだろうか。

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