2024年5月時点においてミュージカル俳優として33年のキャリアを誇る重鎮、かつシンガーソングライターとして25年となる石井一孝さん。日本ミュージカル界の異端児と言えるその人物像を遂に語る。
本記事はシリーズ第1弾として、幼少期からミュージカルで初めての大役『レ・ミゼラブル』のマリウスを勝ち取るまでを追う。
ご本人の公式サイトには既に興味をそそるプロフィールが記載されているので必見。石井一孝さんの謎に満ちた子供時代、夢に溢れる青年時代を知りたい方は是非とも覗いてみてほしい。
ここではプロフィールを掘り下げつつ、コンサートやインスタライヴ等で語られてきた人生をご紹介する。シリーズを通して2024年までの活動の全体像が分かるのはここだけ!
石井一孝さんの誕生日、出身地、学歴は?
誕生~小学生まで
1968年1月23日朝4時56分に生を受けた。まさに生まれる!出てくる!という時に看護師さんたちが「いま何時?」と話していたのをお母様が耳にしたらしい。
東京都葛飾区出身のチャキチャキな下町っ子。生年月日が同じ日本の音楽家に葉加瀬太郎さんがいらっしゃる。いつかコラボしないかなぁ。
3人の子供の中で一番上。小学生の頃は中学受験のため勉強漬けの毎日を送っていた。反抗期には勉強勉強の自分が嫌になったこともあったが、おかげで机に向かう習慣と必死に努力する大切さが身についた。
しかし反動というか、勉強中の唯一の娯楽がラジオだったこともあり、音楽が大好きになる。歌が上手いと褒められたことも相乗し、12歳にして歌手になることを決める。
勉強を頑張った子供時代と、早いうちから身に着けた努力体質。これが、ミュージカル俳優かつシンガーソングライターという30年のキャリアを決定づけていると言っても過言ではない。
新しいミュージカルがもうすぐ開幕というタイミングでインスタライヴを開催してくださるが、時代背景や役の背景の掘り下げ方が実に深い。
勉強家なんだなと誰もが思うだろう。同じ曲をほかの人が歌っているのと石井さんが歌っているのを比べても、表現している感情の説得力が違うと感じることも多い。
中学~大学、デビュー前
私立中学には落ちてしまったが、高校は名門・両国高校。
成績優秀かつ陸上部では走り高跳びの選手。
大学は上智大学スペイン語学科。
世界史は小学生のころから大好きで、特に年代暗記が得意だった。
英語はもちろん上級者、スペイン語は1か月間スペイン1周の一人旅ができるほど堪能。
筋トレにもはまり、デビュー作『ミス・サイゴン』日本初演のオーディションに出したプロフィール写真にはムキムキの肩が写っているとか。なるほど初出演したドラマ『29歳のクリスマス』(深澤役)ではヒイッ!と釘付けになるほど綺麗な細マッチョの上半身を晒していた。
高校時代にQUEENと出会ったおかげで「フレディ・マーキュリーになりたい!」と独学でピアノと作曲を勉強。日本の歌謡曲、シティ・ポップ、ロック、AORなどの洋楽に学ぶ。
ご実家が運送業なので、トラックのエンジン音に紛れてシャウトの練習をしているはずが、通りの端から端まで歌声が届いたとの逸話がある。50代になっても尚、ミュージカル界きってのバズーカボイスと呼ばれているデカい声。10代のシャウトの練習が生きているようだ。
インタビュー記事に俳優を目指す若者に向けたメッセージが載っていたが、「表現力や味わいは技術あってこそ。とにかく最初はたくさん練習すること」と語っている。膨大な練習を重ねて熟練の技を習得した人ならではの言葉だ。
大学時代はプロ志向のバンドで作曲を始め、人生で初めて書いた曲は白鍵だけだった。その後、転調や変拍子など複雑なコード進行を勉強してお洒落な曲を書くようになる。
大学時代に書いた曲が1st CD『Heart & Soul Cafe』に収録の「君といる陽射し」や「Sara」あたり。大学卒業後もアルバイトを続けつつ、オーディションの書類選考のためデモテープを送っては落ちる日々。
その中で、ひょんなきっかけから『ミス・サイゴン』のオーディションを受けたところ合格してしまった。
デビューからキャリア確立まで ~永遠のアラジン、大役マリウス~
『ミス・サイゴン』でデビュー、『アラジン』主役アラジンの歌パートを奪取
音楽業界のオーディションは書類選考だけで落ちるので、『ミス・サイゴン』のオーディションで初めて自分の声を人に聞いてもらい、かつプロの選考委員に褒められた。
ダンスを習ったことがないのに歌の実力だけで15000人の候補者の中から。本番までの「ミス・サイゴン・スクール」で必死にダンスと演劇を習ったとのこと。
ご本人は「運命の女神様が寝ぼけていたとしか思えない」と語るが、類まれなる美声とフレディ・マーキュリーやAORシンガーの歌唱法を受け継いだ歌に女神が惚れないわけないだろう。背がスラリと高く脚が長く、スペイン人のように華やかなお顔。舞台で群を抜いて映えるし表情が分かりやすい。
オーディションで石井さんの歌を聴いたのはおそらくアラン・ブーブリルかクロード・ミッシェル・シェーンベルクあたりの制作陣だろうが、ほかの日本人とは一味違うダイヤの原石を見つけたと、ピンと来たのではないか。
事実、いったん稽古が始まれば圧倒的な歌声で周りを驚かせる新人だった。担当のソロは「Kim’s Nightmare」の場面で「大使館に入れよ 脱出だ 猶予などないのだ」部分。そう、ライヴCDにも残されているあの声だ。
日本キャスト代表の数人でブロードウェイ版を観に行き俳優さんと話をしたり、主人公のキムが滞在していたタイのバンコクに旅して本物のブイドイと出会ったりしたらしい。
そして『ミス・サイゴン』上演中、ディズニーアニメ『アラジン』の主役アラジンの歌パートをオーディションで勝ち取る。今もディズニー音楽で最も愛される「ホール・ニュー・ワールド (A Whole New World)」日本語版の声は、ほかでもない石井さんだ。
『アラジン』ジャスミン役の麻生かほりさんとは当時から今に至るまで親友。ちなみに、二人はカップルなのかと憶測を呼ぶこともあるそうだが石井さんは独身。麻生さんは結婚し、お子さんももう立派な若人。
しかしコンサートやテレビでお二方がトークを繰り広げると、ボケとツッコミが絶妙で面白すぎて「お洒落夫婦漫才」と呼ばれる。石井さんは麻生さんの存在で、「男女の友情は成立する」とキッパリ言う。
君はリアルなマリウスだ!代表作『レ・ミゼラブル』
さらにさらに、『ミス・サイゴン』上演中には『レ・ミゼラブル』のマリウス役に大抜擢。オーディションでソロ曲「カフェ・ソング」を歌い、演出家のジョン・ケアード氏に見出された。
立ったり座ったりして何度か歌ったので、オーディションが終わった時には外で順番待ちしていた先輩たちに「カズがなかなか出てこないから心配になってた…」と言われたとのこと。そしてケアード氏によってマリウスに選ばれた。「マリウスは絶対に彼でなくてはならない」と。
石井さんのそれまでの出演作がアンサンブルで1作、アラジン役も歌のパートだけだったので初めての大役に不安を抱えていたところ、ケアード氏に「君はリアルなマリウスだ。そのまま、感じるままやれば大丈夫」と励まされたらしい。
オーディションで既にこのことに気付いていたというのだから、可能性は2つ。ケアード氏の審美眼と人を見透かす目がすごかったこと。もう1つは、ケアード氏がグサッと心を刺されるほど石井さんの歌唱が迫真だったことだ。
純粋で、仲間想いで、女性の気持ちには少しだけ鈍いが愛情深く、正義感に溢れ、なにより真っ直ぐな青年マリウス。素の石井さんに近い性格なのかもしれない。
マリウスは6年間にわたり450回以上演じ、CDにも声が残され、今でも歌うときは目が真っ赤になり涙ぐむ。「『カフェ・ソング』は人生で間違いなく1000回以上歌っている。今でも歌詞は絶対に忘れない」と語る。
アラジン、マリウスから石井さんのキャリアで躍進が始まった。次々に大役や主演を務め、ミュージカル界のプリンスを呼ばれるようになる。しかし、20代のこの頃はまだ、自分は歌手ではなく役者で本当にいいのかと疑問を残したままだった。
歌手になるという長年の夢を叶え、役者も続けると決意する転機はどのように訪れたのか。シリーズ第2回はこちらからどうぞ!
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