「ウィキッド」実写映画版エルファバ役シンシア・エリヴォってどんな人?【俳優紹介】

2024年秋に実写映画化されるミュージカル『ウィキッド』。ヒロインの一人エルファバを演じるのはCyntia Erivoシンシア・エリヴォ、以下「シンシア」)。グリンダを演じるアリアナ・グランデは言わずと知れた歌姫であるが、シンシアに関しては日本で知らない人が多いだろう。

ということで、この記事ではシンシアの華々しい経歴と主演映画『ハリエット』を見た感想、彼女が取り組むLGBTQ活動をとおして、彼女の人物像に迫ります。

個人的に今思うのは、「この人がエルファバなら絶対素晴らしい」!是非最後までお楽しみください!

経歴と出演作(Wikipediaより抜粋)

ナイジェリア人の両親を持ち、生まれはロンドン中心のちょい南部に位置するランベス区ストックウェル。ウォータールー駅の近くで、テムズ川に面しており、ランベス宮殿というカンタベリー大司教の公邸や劇場、クリケットの競技場などもある。

ミュージカル・マニア的な観点では、ランベスと言えば『ME AND MY GIRL』でめっちゃ盛り上がる「The Lambeth Walk」で歌われる地区。

大学はイースト・ロンドン大学。学生数28000人超、120か国以上から留学生を受け入れるマンモス国立大学である。そのあと王立演劇学校で女優になるための修業を積んだ。

2011年ミュージカル・デビュー。驚くのは、そのすぐ後で『Sister Act』の主演デロリスに抜擢され、作品史上初の全英ツアーに出たこと。そう、『Sister Act』の邦題は私が好きすぎて何度も記事に書いている『天使にラブ・ソングを』だ。

その後は2023年に映画化もされた『カラー・パープル』セリー役で主演。アフリカ系の女性が力強く生きる術を見つけていく名作だ。

2013年にロンドンで、2015年にブロードウェイで演じ、2016年の第70回トニー賞でミュージカル主演女優賞、第59回グラミー賞で最優秀ミュージカル劇場アルバム賞、エミー賞を勝ち取った。

デビューからわずか5年でこの快進撃。歌って歌って歌いまくるブラックミュージックの女神、あのデロリスを、デビュー早々に演じたというのだから類まれなる才能の持ち主だ。

2021年にはオリジナル・アルバム『Ch. 1 Vs. 1』でメジャーデビューも果たしている。

彼女の歌はYoutubeにいくつも載っているので聞いてみたが、『プリンス・オブ・エジプト』の名曲「When You Believe」や『カラー・パープル』の「I’m Here」なんて涙が出てくるほど圧巻だった。

映画『ハリエット』でアメリカ史上類まれな黒人女性の奴隷解放運動家を演じる

映画にも出演しており、代表作は2019年にタイトルロールで主演した『ハリエット』。しかも、主演だけでなく主題歌「Stand Up(スタンド・アップ)」も歌い、第92回アカデミー賞で主演女優賞、ゴールデングローブ賞と放送映画批評家協会賞の主演女優賞および主題歌賞にノミネート。

勢い余って映画を視聴してみたが、すごいスケールの映画だった。歴史物語として貴重な作品と思う。シンシアの歌声も存分に発揮されていた。

ちょこっとだけあらすじ紹介

ハリエットの本名はアラミンタ、通称ミンティ。
アメリカのメリーランド州で黒人奴隷の両親のもとに生まれ、自分も奴隷として辛酸をなめ、たった一人で逃亡し、フィラデルフィアにある奴隷解放の地下組織「地下鉄道」によって助けられた。

ハリエットと名乗り始めたのはその後。「地下鉄道」の「車掌」と呼ばれる幹部となって南部とフィラデルフィアを何往復もし、70人以上の黒人奴隷を救い出した。最初は残してきてしまった家族も、もちろんその中に含まれている。

南北戦争が始まると北軍の料理人、看護婦、スパイとしても活躍。「カンビー川の襲撃で150人の黒人兵士を率い、750人の奴隷を解放した。武装隊を率いた女性としてアメリカ史上まれな存在」と映画では解説されている。

戦争終結後は女性参政権運動に人生を捧げた。1913年3月10日、91歳で亡くなる。最期の言葉は「I go to prepare a place for you(あなたたちの居場所を用意しておくからね)」

アメリカの奴隷解放運動家ハリエット・タブマンと言ったら、その筋の歴史マニアはドキッとするのではないだろうか。

でもミュージカル・マニアにも縁がある。ジャック・マーフィー作詞、フランク・ワイルドホーン作曲の南北戦争を描いたミュージカル『The Civil War』(日本では未上演)にも登場する実在の人物。壮大なゴスペル「Someday」を歌う。

大勢の奴隷を導いてフィラデルフィアへ連れて行ったので、人呼んで「モーセ」

すごい呼び名だ。そのエピソードを活かして「Someday」では彼女が仲間たちに昔話を聞かせる。「モーセはエジプトでファラオの奴隷にされている仲間たちを救いたいと神に訴えていた。モーセは辛抱強く神のお告げを待った。ファラオは知らなかったが、神は自由を約束してくれた」

そう、出エジプトがあったように、私たち奴隷も必ず自由になると神が認めている、と。

映画に描かれていたハリエットも信心深かった。というか、奴隷時代に頭蓋骨を割られ生死の境をさまよって以降、てんかんと睡眠発作に悩まされており、そのときに神の声を聞くみたいな感覚になっていたようだ。

一人の哀しい奴隷の女性が、勇ましい運動家に変貌していく様が驚愕だった。なんという行動力。なんという信念。なんという強運。

シンシアが、自分と同じルーツを持つ祖先がたどった歴史を真摯に受け止め、心と体全部を使ってハリエットを生きる姿に魅了された。

主題歌の「Stand Up」も響いた。私は過去に縁あって19世紀アメリカの黒人奴隷がよく歌っていたゴスペル、いわば「黒人霊歌」を聞く機会があったが、当時のメロディに似せた古めかしいソウルが胸を打った。

現代でよく聞く流麗なメロディでできていないのだ、本来のゴスペルは。辛い現実からひととき逃れるために、悲しい時にこそ歌うのがゴスペルだった。

重い器具を手に畑仕事で重労働、白人の機嫌が悪ければ殴る蹴るの暴行をされ、鞭打たれ、女なら生理も来ない時に体を犯され、簡単に殺される。

逃げるなら何日も飲まず食わず、泥だらけで疲れ切っても走り続ける。自由か、死か。そのくらいの覚悟がなければ、人として当たり前のはずの自由は手に入らない。

そんな、黒人奴隷を潰しにかかってくる社会と時代の罪が、岩になって落ちてくるような重さのあるリズムとメロディ。これを歌いきったシンシア、どれだけ泣いたことだろう。

LGBTQ活動家として

シンシアはバイセクシュアルを公表しており、LGBTQの活動家としても知られている。

彼女のインタビュー動画ではプライド月間のことを「権利を勝ち取ってきた先達と今も戦っている仲間たちの存在を確かめ合う場所でもあり、まだ自分を理解していない若者が似たような仲間たちと出会って自信を映し出すことができる場所」と表現した。

2024年5月18日、ロサンゼルスLGBTセンター・ガラでシュレーダー賞を受賞し、スピーチを行った。そのさい自分のことを「坊主頭でピアスをした黒人のクィア」と言った。

クィアとは元々「風変わりな、奇妙な」という意味で、今ではLGBTQの当事者が自称として使っている。その分野のジェンダー研究は「クィア・スタディ(Queer Study)」と呼ばれる。

そしてそう、彼女はいま坊主頭で、お鼻にピアスをしている。ファッションと人種とジェンダーにおいて「他人と違っている」ことに誇りを持っている。

彼女の特徴はなにも坊主頭と鼻ピアスの黒人のクィアだけじゃない。衝撃的にかっこいいファッション・アイコンだ。思わず彼女のインスタをフォローしてしまったくらい、モデルとして活躍する彼女の写真はカッコよすぎる。カッコよくってたまんない。

女らしい?男らしい?関係ない。彼女が衣装をまとってポーズを決めると、もうそこはシンシア女王の世界。

そんな女王シンシアのスピーチが掲載されたVOGUE JAPAN(2024年5月20日)から、エルファバについての話を引用したい。

「エルファバの物語は、カラフルで力強い魔法を持った女性が、軽蔑され、悪魔の如く言われ、そして差別されていたにも関わらず、一人のヒーローになる様を描くものです。

『ウィキッド』では彼女に貼られたレッテルを掘り起こし、イメージを新たにしています。人と異なる力を持つ彼女の存在を認め、高らかに讃えるのです。

ここにいるカラフルでマジカルな皆さんにとって、これは馴染みのある物語かもしれません」

エルファバがヒーロー。なんて素敵な響きなんだ。

スッと腑に落ちた。そうか。だから「Defy Gravity」はこんなにも人の心を打つんだ。エルファバは追われる身となってしまい、最後まで恋人のフィエロと親友のグリンダ以外、誰からも認められることなくオズから消えた。

でも私達は、巨大な権力に抗い「正しいと信じたこと」に向かって突き進んだ彼女に、自分もああなれたらいいのにと、ヒーローを見ていたんだ。

最後に

実写映画版『ウィキッド』は前後編にわたる大スペクタクル。エルファバの撮影が続きながら、今もミュージカルでお仕事があるシンシア。

つい先ごろの2024年6月27~29日にはブロードウェイのリンカーン・センターで『A Little Night Music in Concert』に出演した。今頃はエルファバとの旅もクライマックスに近づいているのだろうか。

人種差別の歴史、LGBTQの歴史と文化、人生の様々な局面でエルファバの人生と似たエピソードを体験してきたシンシア。間違いなく言えることは、今まで見てきたどのエルファバとも違う新しいメッセージを受け取るだろうということ。楽しみで仕方ない。

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