ミュージカル「レ・ミゼラブル」フランス初演版を石井一孝さんの解説で紐解く!

6月2日、ビルボードライブ横浜にて石井一孝さんによるコンサート「Hot! Bright! Passionate! with Special Guest 新妻聖子」参戦してまいりました!熱かった~~極上の歌声でした!

が!!なんといっても目玉は『レ・ミゼラブル』1980年フランス初演版の曲たちを紹介した超マニアックなコーナー。今ではボツになったり構成がガラリと変更されたりした幻の名曲たちを、石井さんがこのコンサートのために自ら作成したオリジナル訳詞で見事に歌い紡ぎました。

この記事では、石井さんがコンサートの予習にと開催したインスタライブと当日のレポートを兼ね、会場へ足を運ぶことはできなかったけれど『レミゼ』好きな方々に少しでもお楽しみいただけるよう、書き留めていこうと思います。是非最後までお楽しみください。

『レミゼ』フランス初演版の豆知識(インスタライブより)

制作・上演の歴史

欧米のミュージカルは音楽アルバム(コンセプトアルバム)としてレコード盤を出してから舞台で上演することが多かった。『レミゼ』もいちばん最初は20曲ほどのコンセプトアルバム。その後1980年ミュージカルで初日を迎えた。
しかし当時、ミュージカルは英米の文化。オペラとムーラン・ルージュの文化が濃いフランスでは根付かず、大ヒットはしなかった。
それを1985年にウェストエンドの演出家キャメロン・マッキントッシュがロンドン初演で花開かせた。日本では1987年初演。

フランス初演版のレコードについて

*筆者注*フランス語と日本語訳の併記があまりにもゴチャっとするため曲名は基本的に日本語にしてあります。悪しからず。
レコード盤には俳優さんの写真と名前、登場人物の似顔絵が載っている。主役はファンティーヌ、準主役がガブローシュ!
「1日の終わりに」がオーバーチュアだった。
直後にファンティーヌが歌う「オン・マイ・オウン」。現在エポニーヌが歌う失恋の曲ではなくファンティーヌの辛い現実を歌う。そこから「夢破れて」に続く。
その前のシーンがすべて飛ばされているので、超有名な現在のオーバーチュア、仮出獄、ミリエル神父の銀の燭台、ヴァルジャンの独白、すべて存在しない。
なぜか。ヴァルジャンの仮出獄と銀の燭台エピソードは、フランス人全員が知っているくらいの有名すぎる物語だから。
『浦島太郎』で太郎がカメを助けるのは当然のことと日本人みんな知っているのと同じ感覚。ミュージカルがファンティーヌのシーンから始まるのは、『浦島太郎』が竜宮城から始まるのと同じような感覚(笑)。

フランス初演版レコードからシングルカットされた曲たち

最初のシングルカット
「民衆の歌」。B面はなんとエポニーヌが亡くなった後のアンジョルラスの曲(♪彼女が最初~)。
2枚目のシングルカット
「ABCカフェ」から当初は独立していたマリウスのソロ(♪君が今夜居合わせたら~)。B面はエポニーヌのボツ曲。しかし現在も使われている曲に鱗片が見える(♪コゼット 思い出す~)。非常にいい曲。「オン・マイ・オウン」に負けただけのこと。
3枚目のシングルカット
ガブローシュのソロ曲「ボルタールの過ち」、B面にファンティーヌの「夢破れて」。

フランス初演当時の曲について

初演『レミゼ』の曲は全体的に今の曲よりかなりテンポが遅い。
「On My Own」に現在あてがわれている、転調を伴うサビがない。
「ABCカフェ」のシーンでマリウスが遅刻しない。それどころか、コゼットに出会って恋に浮かれている曲が独立した1曲になっている。
「ABCカフェ」の中にダンサブルなアップテンポの部分がある。グランテールがおらず、街の中で陣地についている様子を仲間が歌っている。
「ワン・デイ・モア」でアンジョルラスの一番カッコイイ「嵐の日まで~」のソロパートがない!!転調もしないで単調な感じ。
ジャベールがセーヌ川に身を投げるシーンは最初からあった。
ジャベールと表裏一体のバルジャンのシーンを作るにあたり、ジャヴェール最後のシーンと全く同じメロディの曲をヴァルジャンに歌わせてくれ、とキャメロンが頼んで生まれたのが「ヴァルジャンの独白」。
このように1曲1曲アリアやシングルカットにできる独立した曲をもっと演劇的に複雑にしたのがキャメロン版。
「カフェ・ソング」、「彼を返して」、「スターズ」、「病院の対決」といった現在の『レミゼ』で最重要のアリアが初演版でほとんど存在しない。
現在のオーバーチュアはないが、同じメロディの「ベガ―」(貧民街が出てきてマリウスとアンジョルラスが登場するところ)は最初からある。
おまけ:イスラエルのヘブライ語版もものすごく違って比較すると面白い。オススメ。

マリウスを演じた石井さんによる豆知識♪

フランス初演のレミゼのレコード盤にはマリウスの祖父が登場。
マリウスの祖父はマリウスの父親と政治的に敵対関係にあり仲が悪かった。マリウスはお父さんがダメな奴だと祖父に教え込まれていたが、本当はいい人だったことを父親の臨終の場に立ち会った時に知った。
それがきっかけで裕福な祖父の家から飛び出し、法学生として一人で貧乏暮らしをしている。同時に祖父の王党派から父親の革命派に変わった。
マリウスが黒い衣裳を着ているのはお父さんの喪に服しているから。

ビルボードライブ横浜で歌われた曲の感想

ファンティーヌが歌う「オン・マイ・オウン」の原形

現在エポニーヌが「ひとり」と歌う3音にフランス語で “La mise” (ラ・ミゼと発音していた。Laは女性名詞につける冠詞なので「惨めな女性」という意味かな?)と充てられている。

ここを石井さんの訳詞では「みじめ」と。そこから「でも…」と続くのが、意味の面でも音やリズムの面でも見事にピッタリ。

「夢破れて」と似た内容になっているが「ラ・ミゼ」と象徴的に歌うので主題歌のように思える。愛に満ちた幸せを夢見る無垢な乙女がどん底に突き落とされた不幸を描く。確かに「夢破れて」とこれた一人の登場人物で二重に来ると、重すぎて観客の気持ちが暗くなりすぎるような。

歌詞の内容から、この時点(ミュージカルの中では一番最初)ではコゼットがファンティーヌのお腹の中にいることが分かる。お腹の子とともに男に捨てられ路頭に迷ったファンティーヌが、強く生きていかなければと決意する。しかし悲劇の始まりであることが予想できる。

恋するマリウスの曲&「ABCカフェ」の原形

現在も形が残っているマリウスのソロ「♪君が今夜居合わせたら~」のところが1曲として独立している。コゼットと出会って「この人だとピンときた、彼女と共にいたい」と、恋焦がれている様子。

若くて初心で純粋な感じ。しかし目の前で友人たちが必死に革命の話をしている時に「だめだこりゃ」と思えないでもない(苦笑)。

驚いたのは現在「♪レッド 熱き血潮 ブラック 呪いの過去」になってABCカフェの学生たちが高らかに歌う部分がマリウスのソロ曲に入っており、革命で戦う内容ではなく恋を知る前と知った後で世界の景色が変わったという内容。

訳詞では「ルージュ(赤)」と「ノワール(黒)」がフランス語そのままで使われており、響きがとても良かった。

「ABCカフェ」では本当に!ダンサブルなサンバのリズムでラ・マルク将軍の死を悼んでいた…なんだこりゃ(笑)石井さんが思わず軽やかにステップを踏んでしまうのも理解できるくらいアップテンポだった。

完全ボツになったエポニーヌのソロ曲

日本語で訳したタイトルは「お互いのために」と石井さんは語っていた。エポニーヌはマリウスが好きなのに、コゼットとラブラブになってしまった彼を見て「幸せそうで天使みたいに素敵」と歌う。

もしかして、「片思いの相手がほかの女とイチャイチャしているのを見て、そんな風に思えるわけないだろうが!!」とツッコミが入ったがためにボツになったのかも知れない。そのくらい純粋無垢で優し気な曲だった。

上述したように、メロディとしては鱗片が現在も残っている。しかし9割はもう使われていない。なのに素晴らしく耳に心地よい名バラード。

せっかくなので、これを機に日本で現役の女優さん…できればこのコンサートに出演され、エポニーヌも演じた新妻さんが、石井さんの訳詞を使って音源に残してくださったら人類の財産になりそう!!

石井さん曰く、原作の小説でエポニーヌはミュージカルに描かれているほど重い存在ではない。しかもガラガラ声で、マリウスが食べかけて床に落としてあるカビが生えかけたパンのかけらを拾い、齧って「うまい」とか言う娘。

マリウスにとって恋愛対象とは違うし、ペットのよう。こんなエポニーヌの存在感を小説の10倍に押し上げたのがミュージカル版の最も素晴らしい点の一つ

終わりに

終始「えーーっ!そうなのー!」の連続でしたが、個人的に一番ビックリしたことは「ヴァルジャンの独白」よりも「ジャヴェールの自殺」が先に作られたエピソード、エポニーヌのボツ曲があんなに素晴らしかったことです。

30年以上も世界中で上演されている珠玉のミュージカルは、一日にしてならずだったのですね。

『レミゼ』ファン悶絶のマニアックなコンサートと超詳細な解説、お楽しみいただけましたでしょうか?ご興味を持たれた方、是非とも石井さんのインスタライヴのアーカイブもご覧ください。

石井さんの訳詞をつけた「フランス初演版レミゼ、日本語でのリバイバル」音源を世界に残したい!賛同してくださる方いませんか!?

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