石井一孝Reading Style Drama「君からのBirthday Card」観劇しました!【感想】

2025年1月25日、ミュージカル俳優&シンガーソングライター石井一孝さんのオリジナル・ミュージカルReading Style Drama「君からのBirthday Card」を、すみだパークシアター倉にて観劇してきました。

笑った、泣いた、笑った、泣いた、泣いた、泣いた…

観てよかった!!本当に過去の公演とぜんっぜん違いました!!

感謝を込めて感想を書かせていただきます。かなり赤裸々な思いも綴っています(決して悪いことや批評ではなく)ので、ぜひ最後までお楽しみください!

石井一孝さんそのままの「五島宏」

何はともあれ「君からのBirthday Card」の生みの親、石井一孝さんを語らなければ。

純朴でオタク気質。人に愛情深く、自分も甘えんぼうだから、愛されキャラ。主人公・五島宏は石井さんご本人の気風がそのまま反映されたようなキャラだ。

若かりし頃のめり込んでいたノストラダムスを語る時は子供のよう。かれんの思い出を語る時は、それだけで優しい気持ちになるようなウットリした眼。目尻がトロンとしている瞬間もある。

かれんを失い悲しみの底にいるときは、放心と現実の狭間を行ったり来たり。かれんの魂が宿ったバースデーカードを手にしている時は、全身で愛おしむように。

私の大好きな「夜の雲」なんて高音が今まででいちばん力強かったし、優しく囁きかけるような「ぬくもり」ももちろん泣いた。しかし個人的にいちばん泣いたのはラストシーンだった。

妻がくれた最後のバースデーカードに書かれた言葉は、「虹はいつも雨の後の空に架かる」。その言葉を心に刻み付けるように歌うクライマックスの「No Rain, No Rainbows」。

まっすぐな眼に、最愛の妻の笑顔が映っているのが見て取れた。かれんが渡っていった虹の橋。でも、冷たい雨の後にしか見ることのできない希望の虹。

宏はもう妻がいなくても大丈夫、なのではない。「これからの時も きっと僕は君と歩く」のだろうと確信した。いつも通り、隣にいてくれるように。そう、冒頭の歌の意味がここで分かる。

ここから続く結びが、ものすごくいい。妻がくれた愛をこれからはみんなにも伝えたいと、自分の誕生日パーティーに集まってくれた友人たちに見立てた観客に向かって宏は言う。

「誰かの誕生日がつながって1年になる。ハッピーバースデー。生まれてきてくれてありがとう」。そして観客に頭を下げるのだ。

こんなに明確に作品の大切なメッセージを伝えられるエンディング、なかなかない。愛する人の誕生日を一緒に迎えること、祝うことがどれほど尊いか。そんな幸せが当たり前ではないことに気づかされる。

「君からのBirthday Card」を生まれ変わらせた荻田浩一さんの演出

前回まで4度にわたって公演してきた「君からのBirthday Card」は、すべて一人芝居+助っ人だった。今回初めてヒロインを女優さんが演じる二人芝居版を作るにあたり、荻田浩一さんという演出家さんが「演出協力」として参加。

荻田さんご本人は「少ししか携わっていない」とおっしゃるが、とんでもない。この作品を、ここまでホップステップジャンプさせた立役者は間違いなくこの人だ。前回までとはまるで違う作品に生まれ変わったような、旧レミゼと新レミゼを観比べた時と同じくらいの衝撃を受けた。

五島宏と一城かれん、それぞれが1人で場面を演じている時にも、2人は心を通わせていた。2人でいる時間は優しく柔らかく、お互いを気遣いながら全力で楽しんでいた。

とても好きだった場面がある。宏とかれんの結婚生活の思い出を語る場面、様々なエピソードを語りながら2人が台本を交代で持ち、見せ合い、読み合っていた。

この公演はReading Style Dramaなので、台詞部分の多くは台本を朗読するスタイル。それを逆手に取った、「そう来たか!」と膝を打つような演出である。それぞれが台本を持ってただ読むだけではなく、夫婦になった2人が一つの台本を分け合うなんて…幸せな場面なのにズキュンと胸が痛んだ。

荻田さんの演出は、石井さんが今まで積み上げてきた作品の歴史を壊すことなく、物語や情景をより鮮やかに浮かび上がらせた。全体に流れる石井さんの優しい雰囲気に、笠松さんの優しさの相乗効果を生んだ。

これができたのは、石井さんとの信頼関係厚く、かつ詩的な空気感を作ることを得意とする荻田さんだけだっただろう。

笠松はるさんが命を吹き込んだヒロイン「一城かれん」

笠松はるさん。過去の「君からのBirthday Card」では、ヒロインの一城かれんは物語の中だけに登場するのに実在していなかった。かれんを初めて演じた生身の俳優さんである。

大変身勝手なことを書く。私はバリキャリの独り身。体はいたって頑丈。そして声が低い。守ってあげたいなんて言われたことは一度もないし、そんなオーラは1ミリも出したくない。

ソプラノ歌手の笠松さんが演じるなら、つまり一城かれんは、病弱で綺麗で可憐で、鈴を転がすようなソプラノ。あーあ、やっぱりこれが日本人男の理想の女かぁ~。

と、ネガティブな感情を覚えなかったと言えば嘘になる。たとえ架空の人物だとしても作者の男性としての理想が反映されているはずだからだ。美人薄命なんて言葉は無くなってしまえと思うけれど劣等感が頭をもたげる。

そんなことを思いながら、お稽古場の見学会でほぼ初めて笠松さんの歌声を聞かせていただいた。

衝撃を受けた。な、なんなんだこれは…全身が癒される…

そのとき分かった。声の高い低い関係なく、品性と優しさがすべてなのだ。ピーチクパーチクキーキーとか、汚い言葉で罵るとか、そういうのがいけないだけだ。

品性と優しさをもって美は正義なりだ。

と、考えを改めたうえで観劇した笠松さんの一城かれん。すべてにおいて文句無しの美しさだった。宏と2人でいる場面は、主人公を演じる石井さんを引き立てる控え目な演技。対してソロの場面はしっかりとした存在感。なんて生き生きしているんだ。

宏を想う時、宏の愛を感じる時、何度も泣き声になっていた。初めて病気を告白するバースデーカードを読みながら声を震わせていた。結婚後に宏がかれんのため渾身のモノマネを披露したとき、「人間やればできるのね」の顔かと思いきやグッと涙をこらえていた。

私がかれんの場面でいちばん泣いたのは、「ひろたん、今日は空が青いです。だからかな、今日は昨日より体調もいいです。ひろたん、早く来てくれないかな。早く会いたいな」。

過去の公演で石井さん自らこのバースデーカードを読み上げるときも泣いたが、かれん本人が涙をボロボロこぼしながら朗読するからもうダメだった。本当はずっと一緒にいたいよね。

そこに宏が「今できるなら ただ君に会いたい」と被せてくるものだから、さらに滂沱。

精いっぱい生きて愛したかれん。こんなふうに人を愛せたらと思わせてくれた。いろんな意味で笠松はるさんに心から感謝。

二人芝居のための新曲たち

宏とかれんの結婚生活を語る場面で歌われる「Happy Colored」。諦めていたはずの幸せを、お互いの存在のおかげで手にし、人生が彩られた喜びが溢れる。

かれんが病室で歌う「ぬくもり2」。仕事帰りに毎日お見舞いに来る宏は、ある日疲れてかれんの膝で眠ってしまう。その背中や寝息を愛おしむように。
宏が歌う「ぬくもり」と同じ場所に、同じ「奇跡」という歌詞が出てきて2人の絆が際立つ。

天国のかれんが、バースデーカードを糧に一人で仕事に励む宏を見守るように歌う「虹のほとりで」。触れられなくなってもなお溢れる愛に胸を掻きむしられる。

かれん亡き後も毎年届くバースデーカードを宏が読む「君からのBirthday Card~リプライズ」。かれんのメッセージを笠松さんが実際に読み、ピアノで宏の歌声に呼応させていた「Happy Birthday」も歌う。明るい場面ではあるが、ここも涙なしでは見られない。

最後に

正直、かれんのような若い妻が亡くなる物語はキャッチフレーズが美人薄命になっても仕方ない。現代の女性たちには流行らないかもしれない。紹介文だけで新規の観客の心をとらえるのは難しいかもしれないと思っていた。

しかし実際、私は観劇中に何度泣いたか分からない。向かっ腹が立った瞬間はひとつもなかった。私の2列前の男性なんて、かれんが病気を初めて告白するシーンから最後まで泣きっぱなしだったぞ。

物語は決して突飛ではない。夢を追うとかヒーローになるとかはないけれど、幸せが当たり前ではないことに気付かせてくれる。

似たようなことが身近な人に降りかかったら、どうする?自分がそうなったら、何を伝える?愛する人の誕生日を祝うことの大切さを考えたことはあっただろうか?と。

石井一孝さんの五島宏、笠松はるさんの一城かれん、荻田浩一さんの演出、そして進藤克己さんの演奏で紡がれる、石井さんのオリジナル曲。どれをとっても素晴らしく上質。

それらを考え併せて気づいた。この作品は、広く認知されれば流行り廃り関係なくスタンダードになれる。老若男女に通じる普遍的なメッセージと、心に訴える芸術性を、この作品は持っている。

スッキリした。観劇前に抱いていた疑いやモヤモヤも、完成された作品を見せつけられることで吹っ飛んだ。

この作品がこれからも一人でも多くの人に届くことを、今は願ってやまない。こんな素敵な作品を、本当にありがとうございました。

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